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作家・歴史研究家の横山茂彦(著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ絶対に負けない経営術』宝島文庫、『真田丸のナゾ』サイゾー、『大奥御典医』二見文庫など)が発行する、小説と歴史研究のメルマガです。

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メルマガ名
月刊小説クラッシュ
発行周期
ほぼ 月刊
最終発行日
2017年11月15日
 
発行部数
45部
メルマガID
0001670194
形式
PC向け/テキスト形式
カテゴリ
アート・文芸 > 文芸 > 小説

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『月刊小説クラッシュ VOL.22(2017年11月号)』
●本号の内容
  ★秋の超特大号★ 数日かけてお読みください

「ロックンロールに誘われて」 前編 グラスマン

短編連載「健獣学園のひみつ」  東山はるか

ミステリアス官能巨編「危険なボディ」 高輪茂

ブログ
http://07494.cocolog-nifty.com/blog/

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●お知らせ

『狼侠』(笠岡和雄)7月3日発売。
https://www.amazon.co.jp/%E7%8B%BC%E4%BE%A0-%E7%AC%A0%E5%B2%A1%E5%92%8C%E9%9B%84/dp/4846204227/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1500290404&sr=1-1&keywords=%E7%8B%BC%E4%BE%A0

『巨影――ほんとうの石井隆匡』(石井悠子・サイゾー刊)
 5月24日発売。
https://www.amazon.co.jp/%E5%B7%A8%E5%BD%B1-%E3%81%BB%E3%82%93%E3%81%A8%E3%81%86%E3%81%AE%E7%9F%B3%E4%BA%95%E9%9A%86%E5%8C%A1-%E7%9F%B3%E4%BA%95-%E6%82%A0%E5%AD%90/dp/4866250852/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1494747001&sr=1-1&keywords=%E5%B7%A8%E5%BD%B1

『山口組と戦国大名』(横山茂彦・サイゾー刊)発売中。
http://7net.omni7.jp/detail/1106646827

『真田丸のナゾ!』(横山茂彦・サイゾー刊)は、当時の一級史料に典拠した、史実再発見の記事が満載です。
例:「大坂の陣で真田一族は天下を取れていた?」「豊臣秀頼はやっぱり秀吉の子ではなかった!」「秀吉が遺言した淀殿と家康の婚儀は、大野治長の略奪愛によって実現しなかった!」「九度山にあった真田家大奥? 信繁(幸村)の永遠の愛人・きりは女忍者になるしかない」「関白秀次が生きていれば、豊臣家は家康に付け入るすきを与えなかった!」
https://www.amazon.co.jp/%E7%9C%9F%E7%94%B0%E4%B8%B8%E3%81%AE%E3%83%8A%E3%82%BE%EF%BC%81-%E6%A8%AA%E5%B1%B1-%E8%8C%82%E5%BD%A6-ebook/dp/B01DFLY3Z8


以下は既刊です。
 『軍師・軍兵衛に学ぶ絶対に負けない経営学』(横山茂彦、宝島文庫)ご購読のほど、よろしくお願いいたします。
http://tkj.jp/book/?cd=72180501

『体験告白 歳の差カップルはドラマチック』(横山茂彦)好評発売中。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/480021520X/yokotou01-22


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   「ロックンロールに誘われて」 前編   グラスマン

「ああ、こんなに興奮したのはいつ以来かしら」
 聡美は頬を少し赤らめながらテーブルの上にあったペットボトルの水をごくごくと喉を鳴らしながら飲み干した。
 俺はそんな聡美を懐かしさを感じながら見つめていた。
「高校の卒業ライブの時以来だな、聡美の歌を聞くのは」
「そうね、懐かしいわ」
 聡美はそう言いながら肩口の髪を両手で掻き分けた。その瞬間シャンプーの香りに交じって俺の本能を刺激するフェロモンが鼻腔をくすぐってきた。それはアノ頃……俺たちが高校生だった頃に感じたものと似てはいるが、かと言って全く同じものだと断定まではできない。恐らくお互い不惑の齢をとっくに超えていることからくる違いなのだろう。俺は自分の気を逸らすために聡美に言った。
「この前メールで言ってただろう、ダイエットしてるって。その後どうなんだ?」
 ステージの上では聡美の後に出てきた中年オヤジのバンドがレインボーのハイウェイスターを演奏し終えたところで、客席から大きな拍手を受けていた。
「うん、何とか3Kgほど体重を落としたわ。でも、それ以上は中々……若い頃のようにストンッて落ちてくれないわね」
 聡美もステージに向けて力一杯拍手をしながら言った。うなじが汗ばんでしっとりとしているのが分かる。
 俺の意識がコントロールを失ってどこかへ飛んでいくのを感じた。

「やっぱりロックンロールは男の音楽だって」
 俺は両手でギターを弾く真似をしながらハウンドドッグのフォルティシモを口ずさんだ。
「でも、その曲ってロックンロールっていうよりロックバラードに近いよね」
 急に割って入ったきた棘のある言葉に俺は正直ムッとした。
「だいたいボーカルの大友康平って、声が独特でハイテンポでポップな曲は合わないって思わない?」
 ずかずかと俺の世界に土足で踏み込んできたのは森下聡美だった。聡美は女子としては背が高い方で顔立ちも整っていて、男子の間では評価が高い方であったが、ガッチリ体育系の男子生徒相手でも平気で喧嘩を売るほどの気の強さから少々メンドクサイ系に分類されている女子であった。
「でもさ、現に浮気なパレットキャットなんか凄くポップで売れたじゃないか」
 俺は不満をストレートにぶつけた。
「で、シゲゾーは好きなの、その曲?」
 俺は突然名前を呼び捨てにされて少し焦った。とはいえ、俺の本名はシゲオでシゲゾーではない。聡美は何度間違いを指摘しても一向に修正しようとしないので俺が諦めてシゲゾーと呼ばれても反応することにしたのだ。
「ああ、大好きだよ。だっていい曲だからあれだけ売れてベストテンにも出たんだから」
 俺はまるで自分のことのように胸を張って言った。
「あはははは……バカみたい」
 聡美は周囲が振り向くほどの大声で笑い飛ばした。
 俺は相手が男ならぶっ飛ばしてしまいたい衝動に駆られていた。
「な、なんだよ……何がバカみたいなんだよ」
 俺は言葉に詰まりながら聡美ににじり寄る。同時に俺のそばにいた友達が思わず飛び掛かってしまうのを阻止するかのように俺のズボンのベルトに手を掛けるのであった。
「シゲゾーは全然知らないんだね。あの曲はハウンドドッグの名前がメジャーになる為だけにスポンサーの言い成りで作った曲だから、ライブでは絶対にやらないんだよ。大友康平も口ずさむのも嫌だって色んな雑誌でも言ってるのに……」
 聡美は一しきり笑い終えると俺を諭すように話した。
 ロックやバンドに興味を持ちだして早や数年。俺はテレビなどで頻繁に聞く曲がいい曲だと妄信的に思い込んでいたのだ。しかし、聡美の話しを聞くうち、テレビやラジオで聞く機会があまりない曲にも、いやむしろそんな曲にこそ名曲があるのだと悟った。すると、そんな俺の気持ちを察したのか聡美がこんな提案をしてきた。
「シゲゾーはロックが好きなんでしょ? どう、バンドやってみない、私と?」
 恐らく俺の目は一瞬この世を離れていたのではないかと思う。それほど聡美の言葉にはインパクトがあり、即座には俺の意識の中に入り込まなかったのだ。
「まあ、ちょっと考えてみて」
 聡美はそう言い残すとさっさと教室の外へ出ていった。
「シゲちゃん、どうするんだ? アノ子とバンドやるのか?」
 話しの展開を聞いていた友達が心配そうに聞いてきた。相手が相手だけに羨ましいわけではないのはすぐに分かった。
「あ、うん、ちょっと考えてみる」

 翌日、俺は聡美に告げた。
「バンドの件だけど、やるよ」
 俺は短く伝えた。
「そう、分かったわ」
 聡美もさも予想通りといった感じで答える。
「それで、シゲゾーは何をするの?」
 そう問われてから俺はハッとした。
「ギター? ベース? それともドラム?」
 そう、実は俺はバンドに必要な楽器は何もできないのだ。
「あ、その……君は何をやるの?」
 俺はクラクラと眩暈がする感覚を覚えながら辛うじて聡美に聞き返した。
「あ、私? 私は勿論ボーカルよ。だって私、楽器は何もできないんだもん」
 そう言ってケラケラと乾いた声で笑うのであった。
 その日の夕方。俺はバスと電車で1時間ほどかかる駅に降り立った。その駅の近くにロックの雑誌に載っている楽器店があるからだった。俺はとりあえず手元にあった小銭も含めて1万円ほどを紙封筒に入れて持ってきていた。
 楽器店の店員さんは優しかった。俺が半泣きで事情を伝えると、
「分かったよ。とりあえず君でも始められるエレキギターの入門セットがあるから、これから始めるといいよ。但し、値段は1万円では足りないな。今日のところは1万円でいいけど、後で足りない9,800円を持って来られるかい?」
 金髪ロン毛の店員さんに言われて、俺はとりあえずエレキギターの入門セットを自宅へと持ち帰ったのであった。足りなかった9,800円は姉に泣きついて貸してもらい翌日に払いに行った。

 それから数日間は寝る間も惜しんで練習をした。とりあえずはドレミファソラシドの指の運びとC、D、G、Emのコードが押さえられるようになること……あの金髪ロン毛の店員さんの言い付けであった。
「これができるようになったらまたここにおいで。その段階でできる曲を1つ教えてあげるからさ」
 3日後、俺は金髪ロン毛の店員さんの下にやって来た。
「ほう、凄いじゃん。猛練習したんだな」
 と、嬉しそうに褒めてくれた。そして、俺にとっての初めての曲、ベン・E・キングのスタンドバイミーを教えてくれた。電車での帰り道、俺はずっとスタンドバイミーのメロディーを口ずさんでいた。恐らく近くにいた人は迷惑だっただろうと思う。

 人は自信一つで生まれ変わる。どこかの偉い人が言いそうなセリフだが、当時の俺はまさにそれを体現していたと思う。初めてギターを手にしてから2週間ほどでハイレベルなギターソロ以外はこなせる程になっていた。
「思った通り、シゲゾーはセンスあるんだよ。私と約束した1ヶ月なんか待たずにもう何曲も弾けるようになるなんてさ……」
 と、聡美が感慨深げに言う。
 あまり人を褒めないタイプの人に褒められるとどう反応していいのか俺には分からなかった。
「それでさ、まずバンドとして初めての曲をどうするか考えたんだけど……」
 俺は思わず聡美の顔を凝視した。
「レベッカのフレンズなんてどう?」
 俺は意外だった。聡美の普段のイケイケ具合ならもっと尖がった、ゴリゴリのハードロックを提案してくるような気がしたからだ。
「ああ、いいよ」
 それでも俺は即座に答えていた。
「あ、ベースとドラムは見つけたから」
 翌日の土曜日の夕方に市民会館の音楽室を予約したという。そこでメンバーと初顔合わせをすることになった。その日、俺は興奮で殆ど眠れなかった。

               続く
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短編連載
『健獣学園のひみつ』2
東山はるか

[リード] 由梨が教育長から命じられたのは、森林学園高校にはびこる組織的な援助交際の疑惑だった。しかし、学園の闇はもっと深いところに……。

 赴任から数日、五十嵐由梨は行事記録や宿直日誌をひろげては、その痕跡をさがした。援助交際に特有の連絡先(携帯番号)の一覧表、金銭授受のメモ。そして校舎内に秘密の部屋がないか、歩いて探索したのだった。そのかん、監視されている気配が絶えなかった。
 その証拠に、由梨を落としいれようとする事態が起きた。事件ともいえないそれは、学園の服装検査・持ち物検査のときだった。
 生徒会の主催ではじまった服装検査は、なるほど生徒の自治を標榜する学園の精神にのっとったものだった。生徒たちの検査が終了したとき、生徒会役員の美佳が新たな提案をしたのだ。
「先生がたの持ち物も、検査させてください」
 生徒会の闊達な言いぶんに、教師たちは苦笑しながら応じたのだった。
「五十嵐先生、ハンドバッグを」
「服装検査ならともかく、プライベートなところまで見るのね。もしも、わたしがハンドバックのなかに生徒の内申書を持ってたら、守秘義務違反になるのよ」
 などと法的に抗弁した由梨を、美佳が眉根をたてて睨みつけた。
「ハンドバッグを!」
「はいはい」
 そしてつぎの瞬間、美佳が勝ち誇ったように叫んだ。
「違反だわ! こんなTバック、学校に持ち込むなんて!」
 美佳の手には、真っ赤なストリングス(Tバックショーツ)が握りしめられていたのである。
「そんな、わたしのじゃないわ!」
「五十嵐先生のバッグから、校則違反のパンツが出てきたんです! 下着は白と決められてます」
 男子生徒たちが目をかがやかせ、女子生徒たちは眉をひそめている。
「あらまぁ、そんなの穿いてらっしゃるの。五十嵐先生も発展家ですのねぇ」
 と笑うのは、六十歳をこえて若い男と再婚したという噂の女教師である。
「ちがいます、あたしのじゃ……」
「いいじゃないの、没収はしませんから。でもできれば、ご自宅でお使いあそばせ」
「……!」
けさ職員室にバッグを置いていたときに、誰かに細工をされたのは明らかだ。だとしたら、職員のなかに美佳の協力者が? いずれにしても、これは陰謀だわ! 由梨は調査を徹底的にやろうと思った。
そのTバックの一件は、授業中のノーパン疑惑とともに、教職員のあいだではさしたる話題にはならなかった。教育長の推薦による由梨の赴任には、遠慮するところがあったのだろう。
 それにしても援助交際疑惑は、その痕跡すら見えてこない。
 もう調査をあきらめかけていた頃に、由梨はようやくそれらしい文言に遭遇した。それは「秋の敬老ツアー」という任意の参加行事である。主催は生徒会とボランティア研究会となっている宿泊行事だ。さっそく顧問の男性教師に訊いてみると、連休を利用した社会貢献活動なのだという。
「わたしも参加したいんですけど」
「うれしいですけど、それは困る。会場が狭いし」
「これ、宿泊行事ですよね。参加する生徒の父兄の了解は、とってあるんですか?」
「もちろんです」
「研修施設を利用とはいえ、無料で宿泊を? 民間の施設ですよねぇ」
「いろいろと、まぁ事情が……」
 参加を拒まれたので、由梨は押しかけることにした。山奥の温泉付きの宿泊施設で、敬老という名目の年輩者向けイベント。しかも生徒の宿泊は、無料でクローズド。それが援助交際のカムフラージュであっても、なんら不思議ではないと思うのだ。
 その日、由梨はマイカーで宿泊施設に向かった。彼女が到着したとき、すでに生徒たちは自由時間だったらしく、由梨の姿をみとめておどろく様子だ。あわてても遅いわよ、と由梨は彼女たちの表情を観察した。
 顧問の教師があわてて出てくる。
「五十嵐先生、どうして? 勝手に困りますよ。来てくれたのは嬉しいけど」
 顧問教師は由梨に好意を持っていそうだが、あきらかに何かを隠している。
「施設が狭いだなんて、ウソじゃありませんか」
「いや、いまから、お年寄りたちが……」
 男性教師の言いよどむ様子に、由梨は確信した。ここで援助交際が行なわれているのだと。おそらく八割を占める生徒会とボランティア研究会の女生徒の比率の高さも、由梨の確信を盤石なものにした。雰囲気からして大人びた子がおおく、彼女たちが処女だとは思えないのだ。自身の早かった経験に照らしても――。
 やがて、お年寄りの一行がやってきて、盛大な食事会がひらかれた。握り寿司に天ぷらと、食べざかりの生徒たちは、お年寄りの分まで食べつくす。員数外だった由梨は、持参した缶詰とパンを食べるしかなかった。
お年寄りの年齢層は六〇歳台から八〇歳台と幅がひろく、女性も散見される。けれどもその男女比率が、うまく符合するのだ。少数の男子がおばあさんを、大人数の女子がおじいさんたちを?
 食事をおえた女子生徒たちの会話に、由梨は聞き耳をたてた。
「去年はね、あのお爺さんにやってもらったら、気をうしなっちゃったの」
「腰にビンビン来るわよね。でも、お婆さんたちも激しいの」
「そうそう。たしか羽賀君は、お婆さんたちの部屋で気持ちよくなっちゃって、朝まで寝てたんでしょ」
「ここに泊まると、生理が止まる子がいるんだってね」
 思っていたよりも、深刻な事態になっていると由梨は思った。
 その日はけっきょく、何ごともないまま消灯の十一時前がやってきた。疲れを感じた由梨は「ゆ」の大暖簾(おおのれん)がある、大浴場らしい部屋にたどり着き、そこで脱衣した。
宿泊施設の全貌をあるいて探索したので、汗ばんだ身体をお湯で流したかった。ゆたかな乳房が上気して、先端のつぼみがオレンジ色に染まっている。股間もぬるんでいた。
 素っ裸になり、タオルで股間をかくしながら大きな「ゆ」の暖簾をくぐった。
「うわぁ!」
 つぎの瞬間、由梨は広間の舞台のうえに、豊満な裸身を晒していたのだ。咄嗟に手で胸を隠し、股間をタオルで覆った。
 女子生徒の悲鳴、男子生徒の歓声、そしてお年寄りの困惑した視線。それらが一斉に、由梨に向かって突き刺さってくる。
「ちがうわ! 浴場だと思ったのよ」
「先生、欲情したんでしょ!」
 と誰かが叫んだので、愉快そうな笑い声がおきた。
由梨が身をひるがえしたあとも、男子生徒たちの歓声はやまなかった。服で身体を隠したまま廊下を走り、あてがわれた部屋に飛び込んだ由梨は、このまま死んでしまいたかった。
浴場だと思った入り口は、楽屋から舞台につづくスペースだったのだ。そして生徒とお年寄りたちは、広間でマッサージをしているだけだった。聞き耳をたてて聴いた女子生徒たちの会話は、どうやらお年寄りたちとの相互マッサージのことだったらしい。
 翌朝、由梨は美佳と羽賀の訪問をうけた。由梨は穴があったら入りたい気分で、彼らの言葉を聞くしかなかった。
「五十嵐先生。もう二度と、わたしたちの学校に来ないでください。先生のおかげで、わたしたちは死ぬほど恥ずかしい思いをしました」
「残念ですけど、ああいうことをやってしまった以上、身を引くべきです」
「……わかったわ。ごめんなさいね」
「でもぼくは、個人的には、またお会いしたいな」

(つづく)
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ミステリアス官能巨編 『危険なボディ』 連載第22回
                           高輪茂

 真の恋愛は死の観念をありふれた、容易な、少しも怖くないものにする。(スタンダール『恋愛論』断章46)

【前回までのあらすじ】25歳の銀行員・有馬大輔は派遣会社のシステムエンジニア・三好奈緒美に憧れているが、彼女の素顔がわからない。40歳の飯沼次郎は自動車メーカ―から販売会社に派遣されたエリートだが、趣味のスポーツバイクで知り合った名も知らぬ女性が気になっている。還暦をむかえた福原総一郎は、飯沼の会社のイベントを手がける代理店社長。彼はいきつけの酒場のパート店員に、高校時代の記憶の女を重ね合わせている。仕事で接点のある三人が、それぞれに憧れる想い人は、30歳ほどの美女なのである。

第五章 愛と死の儀式


「ここ、引っ越したばかりなんですよ」
 と、直美は大きなマンションの最上階に案内した。部屋のドアに表札はなかった。
「これは、すごいね」
 千葉の沿岸から東京、神奈川まで見渡せる眺望に、飯沼は驚いていた。
 これなら、いくら隠れ家的な雰囲気があるとはいえ、独身寮の狭い部屋でなくて良かったと胸をなで下ろしていた。
「あなたがシャワーを浴びたら、このシャンパンを抜くわ」
 と、先にシャワーを使った直美が飯沼にバスタオルを手渡した。
 もう飯沼の計画は、その大半が果たされたと言ってもよかった。女の自宅でシャワーを浴び、シャンパンでお互いの仕事を祝うのである。これ以上、どんな幸運が待っているというのだろうか。
 そんな思いは、飯沼を少しだけ高飛車にした。
 彼はシャワーを浴びると、直美から受け取ったバスタオルで下半身を隠し、彼女が支度する様子を眺めた。それは名古屋の自宅で、彼が妻の食事の準備を監督するのと同じ気分だった。
「あら、もう……」
 と、直美は飯沼のシャワーが早かったので戸惑っている。
「君と一緒に走ったんで、いつもより早く腹が空いたよ。シャンパンを」
 直美がシャンパンをそそぐと、飯沼は立ったまま瞬時にそれを飲み干した。
「まぁ、すごいわ。あとのお望みは?」
 ダイニングルームに設えたテーブルにシャンパンを冷やす容器を置き、直美はキャビアとアボカドを切り分けているところだ。
 飯沼は傲岸にも、テーブルの前に座るとこう言った。
「あんたのレーパンの、パッドの匂いを嗅ぎたいもんだな」
 その瞬間、直美は凍りついたように飯沼の目を見た。
「何ですって……!?」
 そして、瞬発的な力で彼の頬を平手打ちした。直美の返す手でもう一度、飯沼の左の頬が狙いすましたビンタで激しい音を立てた。
「これがお望み?」
 もう一度、直美が腕をあげた。
 こんどは軽い音だった。
「むぅ……。けっこう堪えたな」
 と、飯沼は血が滴っている唇に手をやった。
 これも、予定通りの言動と反応だった。
 飯沼が学生のころだった。何かといえば、女子学生に「あんたの膣の深さは何センチなのかね?」「乳輪の高さは何ミリかね?」などと、不躾な質問に興じるキャンパスの名物男がいたものだ。
 ところが、女性を困らせる質問に興じて嫌がられるはずの名物男が、飯沼たちのような紳士的な学生よりも、はるかにモテたのだった。女は礼儀正しい男よりも、自分を愉しませてくれるエッチな男に惹かれる。
 いや、そうではない。女はもともとエッチなことを望んでいるのだと、飯沼はその時に知ったのである。いずれにしても、さっきの不躾な言葉が男と女が焼き肉を一緒に食べる関係に例えられるとおり、直美との距離を急速に近づけたのは確かだった。
 事実、直美は平手打ちで殴っておきながら、さっきよりも飯沼に濡れた眼差しを送ってくるのだ。羞恥の衣を脱ぎ捨て、あられもない肉欲の姿を晒す。いま、直美はそのとば口に立っているはずだ。
「もっと、もっと飲むといいわ。飲んで気持ち良くなってちょうだい」
 娼婦のような眼差しの直美がすすめるままに、飯沼はシャンパンをあおった。
「君も」
「……ええ、飲むわ」
 二人とも、身体が水分を求めていた。八十キロほども走った肉体が水分を欲していたのである。水分を欲求している肉体に、アルコールは危険だった。いや、生理的な危険よりもいっそう、心の危険をもたらす。

つづく)
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 ∧_∧       
(・ω・` )_
O┬O ) /   
◎┴し'-◎ ≡   
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