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作家・歴史研究家の横山茂彦(著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ絶対に負けない経営術』宝島文庫、『真田丸のナゾ』サイゾー、『大奥御典医』二見文庫など)が発行する、小説と歴史研究のメルマガです。

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メルマガ名
月刊小説クラッシュ
発行周期
ほぼ 月刊
最終発行日
2018年04月15日
 
発行部数
45部
メルマガID
0001670194
形式
PC向け/テキスト形式
カテゴリ
アート・文芸 > 文芸 > 小説

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『月刊小説クラッシュ VOL.26(2018年4月号)』
●本号の内容

「中年と小悪魔」 後編 グラスマン

短編連載「人妻不倫 濃紺の下着」  東山はるか

ミステリアス官能巨編「危険なボディ」 高輪茂

ブログ
http://07494.cocolog-nifty.com/blog/

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●お知らせ
新刊! 2月26日発売。
『誰も書かなかったヤクザのタブー』(タケナカシゲル・鹿砦社新書)600円+税
https://7net.omni7.jp/detail/1106846347-1106846347?cateType=1&siteCateCode=421202

『山口組と戦国大名』(横山茂彦・サイゾー刊)発売中。
http://7net.omni7.jp/detail/1106646827

『体験告白 歳の差カップルはドラマチック』(横山茂彦)好評発売中。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/480021520X/yokotou01-22


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   「中年と小悪魔」 後編   グラスマン

 (運命の人……か)
 純一は朝から何度も杏果の言葉を反芻していた。集中力も無く全く仕事も手につかない状況であった。
「小杉さん、お電話ですよ。若い女性から……」
 不意に斜向かいの女子職員に声を掛けられ純一はビクッとしながら我に返った。
「あ、はい……」
 しどろもどろになりながら手元の受話器を上げた。
「お電話代わりました、小杉です」
「私です、杏果です」
 純一は自分が一気に青ざめていくのが分かった。
「あ、なんでしょう……ご用件は」
 唇の端が震えるのを周りに悟られないように気を付けながら喋る。
「今日も会えますよね。カフェでは目立つんでしたら昨夜の公園の入口で待ってますから……必ず、来てくださいね」
 杏果は一方的に話すと純一の答えを待たず電話を切った。
 純一はツーツーとなる音を暫く聞きながら背中を冷たい汗が伝い始めるを感じていた。

 純一は会社のトイレで一人になると昨夜の公園でのことを思い出していた。急に占い師のことを話し始めた杏果に得体の知れない危なさを感じた純一がその場を後にしようとした時、杏果はさっと純一の手を取り言ったのだ。
「あなたは私の運命の人なんだから、私を好きにしていいのよ。私は何も拒まないし、運命の人が喜ぶことは何でも受け入れるつもり……だから、ほら……」
 そう呟くとおもむろに純一の手を自分の胸元へと引き寄せた。
「な、何をするんだ」
 弱々しく非難する純一だが強く手を払いのけるわけでもなく、ただ為されるがままの状態であった。手の平には杏果の弾力のある柔らかい感触が伝わってきた。次の瞬間、純一は手の平に力を込めて杏果の柔肉を掴んでいた。
「そう、好きにしていいの。あなたは私の運命の人なんだから……」
 杏果は妖しく微笑みながら純一の耳元で囁いていた。

 純一は一瞬にして理性を失ってしまった自分を恥じた。
(ああ、なんてことだ。この年になって若い娘に弱味を握られるようなことをしてしまうなんて)
 トイレの個室で一人頭を抱え込んでいると扉の向こうで若い男性社員の声が聞こえた。
「なんか会社用のメールに変な添付ファイルが届いたんだけど、お前のところは無かったか?」
「俺には無かったんだけど後輩のメールには届いたらしいよ。そいつがまたバカなやつでさ、あれだけ怪しいファイルは開けるなって言われてるのにあっさりとクリックしちゃったらしいんだよ」
 純一は二人の会話を何気なく聞いていたが、次の瞬間思わず絶句してしまった。
「そしたらさ、それは画像ファイルだったんだけど、暗い公園のベンチみたいなところで中年の男が若い女のオッパイを揉んでるようなシーンだったんだよな」
 純一は(うっぐっ)と辛うじて声を押し殺しながら手で口元を覆っていた。
「ふーん、でも何でこの会社の社員あてにそんな画像をばら撒くんだろうな」
「それは、アレじゃないか、画像の人物のどちらかがこの会社の人間でさ、ケンカの腹いせにってやつじゃないの。ほら、リベンジなんとか」
「リベンジポルノだろ。でも誰なんだろうな」
 二人組の男性社員が去った後、純一は全身がブルブルと震えるのを抑えることができなかった。

 午後7時。純一は昨夜の公園の入口に向かった。杏果は明るいライト代わりの自動販売機の脇に立っていた。
「お疲れさま、純一さん。昼間はごめんね。急に声が聞きたくなったから……」
 嬉しそうに純一に近づき恋人同士のように手を組もうとする杏果を制して、
「メールの画像……」と呟いた。
 杏果は一瞬驚いた表情を浮かべたがすぐに冷静に戻ると、
「純一さんは私から逃げられないっていうメッセージ……私は小心者だから、色々と手を打たないと不安で仕方ないの」
 杏果は微かに微笑みながら呟いた。
「もう俺の周りでは噂になってるんだよ。この先どうするつもりだ?」
 純一は無感情のまま聞いた。
「そうねえ……なるようになるって、感じかな」
 杏果はどことなくことの成り行きを楽しんでいるような様子に見えた。
「い、いい加減にしろっ。こんなことして何になるんだ。金か……金が目的なら」
 純一がそう言いかけてから杏果が激しく否定した。
「そんなものどうでもいいの。私は単に占いの人を信じてるだけ。ただそれだけだから……」
 そう言うと、おもむろに杏果はその場を立ち去った。

 次の日。純一は普段あまり接点のない営業部長に呼び出された。革張りの高級そうなチェアーに深く腰掛けた営業部長は部屋に入ってきた純一を一瞥すると一気に捲し立てた。
「こんな破廉恥な内容が社内に出回るなんて会社始まって以来なんだよ。幸い世間にはまだ出回っていないようだから、ここで食い止めるために、君には……ここまで言えばどうすべきか分かるだろう。最近は法律が煩いから私からははっきりとは言わないが、もし君が従わないのなら、私も威信をかけて君に対処するしかないが……」
 強面の営業部長に凄まれた純一には抵抗する余力は残されていなかった。その日のうちに退職届に署名捺印し、人事部へ提出したのであった。

 ふらふらとしながら純一は無意識のうちに自宅へ辿り着いた。
「お帰りなさい。どうしたの、顔色が悪いわね」
 玄関先で出迎えた妻は心配そうに聞いた。
「話しがあるんだ」
 辛うじてそう言葉を発した純一はリビングのソファーにぐったりと身体を預けると、妻に事の次第を伝えた。これからどうすべきか……妻と一緒に考えるつもりだった。しかし、
「そう、事情は分かったわ。でも娘も結婚して、世間体を気にする必要も無いのに、仕事を失ったあなたとこれからも一緒に暮らす自信は無いわ」
 妻の無機質な言葉が一瞬純一の耳に届かなかった。しかしすぐにその言葉の意味が理解できた純一は全身から生きる活力が蒸発して消えていくような感覚に襲われた。
 無言で俯く純一の前に妻が封筒を差し出した。
「何も言わずにサインして。多くは望まないわ。ただ、この家の名義を私に書き換えることに同意してくれればそれでいいから」
 妻はそう言うとリビングから出て行った。
 純一は離婚届の文字を眺めながらしばらく石のように固まったまま動かなかった。

 一瞬にして全てを失った純一は残りの人生を杏果と過ごすことも悪くは無いかと思い始めた。純一のことを運命の人とまで表現したあの言葉を信じてみようと考えたのだ。しかし、携帯電話に電話を掛けてみると、「お客様の都合により使用できません」というメッセージが流れてきた。
(解約……したのか?)
 そのメッセージは単に電源が入っていないとか電波が届かないことを意味するものではない。急に不安に駆られた純一は杏果が語っていた税理士事務所を訪れた。
「ああ、あの子ね。2日前に辞めましたよ。ま、こちらもどうせ辞めるんならあまり長くならないうちに辞めてもらった方がいいから引き留めなかったわ」
 受付に出てきた40代と思しき女性がだるそうに話した。
「ちょっと待ってください。その子は5年もこちらで働いてるんですよね。税理士試験に挑戦しながら……」
 少し気色張りながら話す純一の様子を不思議そうに見ながら、
「誰の事を言ってるの? その子はうちに来てまだ1ヶ月も経たないわよ。それに税理士試験を受けてるなんて聞いたことも無いし」
 そこまで聞いて純一は悟った。全てが……嘘だった。

 夢遊病者のように当てもなく繁華街を彷徨っていると見慣れないカフェの前に来ていた。反射的にコーヒーが飲みたくなった純一は自動ドアをおもむろに進み入った。
 窓際の席に腰を下ろすとオーダーを聞きに来たウェイトレスに「ホット」とだけ告げてから宙を眺めるように視線を泳がせていた。すると、すぐ後から入ってきた二人組の女性客に目が留まった。
「えっ」
 その二人組は杏果と……妻であった。少し離れた席に座った二人は純一の存在には気づいていない様子である。それとなく二人の近くの席に移った純一は手近にあった新聞で顔を隠しながら二人の会話を聞き取った。
「それにしても本当にいい仕事をしてくれたわ。さすがにプロフェッショナルね」
 そう切り出したのは妻であった。
「奥様がおっしゃる通りご主人は純情な人でしたよ。こちらが用意したシナリオの内、一番手間の掛からないストーリーで決着がつきましたから。もう少し腹黒いとか悪知恵が働く人だともっと苦労するんですけどね」
 杏果は純一が見たことも無い冷酷な微笑みを浮かべながら話している。
「そうそう、お礼はしっかりと払わないとね。アノ人には家の名義だけでいいって言ったんだけど、私名義のヘソクリはそのまま頂けちゃうし、いい仕事をしてくれた人にはケチケチしたらバチが当たるからね」
 妻は上機嫌でそう話すとバッグから銀行の封筒を取り出した。
「では遠慮なくいただきますね」
 杏果は躊躇うことなく封筒を受け取ると注文したミックスジュースを美味しそうに啜った。
「奥様、これから少しは気を付けた方がいいですよ。万が一奥様が私たちを使って丸儲けの離婚を仕込んだことがバレたら、恐らく命懸けの修羅場になるはずですから」
 杏果はそう話すとどことなく楽しそうな表情を浮かべた。そう、純一にも見せたあの表情であった。
「分かってるわ。絶対にバレないように暫くは大人しくしてるつもり。そうこうしてるうちに病気にでもなってくれるんじゃないかと思うの。早くそうならないかしらね」
 なんとも恐ろしいことを口にする妻に対して杏果も信じられないことを提案した。
「でしたら、保険金を専門に扱う人がいますよ。あくまでも合法的に保険金を受け取るストーリーを組み立てるプロですけど、ご紹介しましょうか?」
 杏果が告げると、
「いいわね、その話し。詳しく教えてくれない?」
 妻が目を輝かせながら身を乗り出した。

 純一は運ばれたコーヒーには口を付けないまま二人に気付かれないように店を後にした。自宅へと続く道をとぼとぼ歩いていた純一であったが、その足取りは次第に力強くなっていった。力の源は、アノ二人への復讐心……ただそれだけである。

                終
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短編連載
『人妻不倫 濃紺の下着』
東山はるか

 深く結びあい、奥に達するたびに玲子の表情がつらそうになってきた。ケンタの先端に、コリッと触れるものがある。これが子宮頸部擦過というやつだな、とケンタはセックスの入門書で読んだのを思い出した。
「痛いですか?」
 などと、余裕をみせて暴発を抑えようとする。玲子が耳もとにささやいた。
「痛くはないわ。でも、つらいぐらい、気持ちがよすぎて。オンナは男の六倍も感じるのよ。気をうしないそう」
「入り口で感じてるんですか、それとも子宮で?」
 生々しい言いかたに、玲子が小さく首をふった。そういうことは、おんなに訊くもんじゃないわ、という答えだとケンタはうけとめた。
「ごめん」
「いいのよ」
 ジュンの愛撫をきらった乳房に、ケンタは手をのばした。その先端にある赤い蕾をクリックしてみる。玲子がビクンと腰をふるわせた。
「あなたが、上になって」
 そのまま反転して、ケンタは膝溜めに律動を送りこんだ。腰を押し込むたびに、ジョボン、ジョボッと卑猥な接合音がたちはじめた。
「すごいぜ、もうアソコが洪水だよ」
 などと、ジュンがそれを評した。
「すこし、腰を斜めに、そう、上から」
 その意味もケンタは入門書で知っている。ふたりの恥骨をあわせることで、玲子の充血したクリトリスを圧迫するのだ。快楽の芯を刺激された玲子は、堪らずに「あうッ、んあぅ」と喘ぎをはばからなかった。
「いッ、いくわ! いっしょに」
 ケンタは祖頸部に力をこめて、自分の欲望をときはなった。
 ドクドクと欲望の濁液が射精管を駆けめぐり、男の悦楽のスイッチをONにした。そしておびただしい欲液が玲子の子壺に殺到するのがわかった。
「膣内(なか)に、入れちゃったけど」
 玲子が快楽のまどろみのなかで応えた。
「ええ、たくさん入ってきたわ。まだ抜かないで」
 玲子の膣口がケンタの分身を噛みしめている。
 それにしても、億単位の精子たちが競争で子宮に達したあとは、卵細胞を取り囲んで酵素で溶かすのだという。そのうち一匹だけが卵子のなかに入りこんで、受精卵となる。射精後の急速に鎮静していく意識のなかで、ケンタはかるい不安をおぼえた。
「赤ちゃんが、できちゃうんじゃない?」
「ほほほ。あなた、パパになるかもしれないわね。でも心配ないわ。IUD(避妊リング)を挿れてるから」
 玲子はしばらく恍惚の状態だったが、それが醒めるとシャワーを浴びに立った。
「どうだった?」
 ジュンに感想をもとめられたが、はにかむしかなかった。これで一人前の男になったという実感が彼を鷹揚にした。
「彼女にまかせれば、きっとだいじょうぶさ」
 だが、その玲子はジュンに冷淡だった。キスを拒否したのはともかく、身体を合わせることなく松葉崩しの体位で、生殖器だけの結合となったのだ。仕事に倦んだ娼婦がするような、おざなりで情熱のない、それは排泄行為にちかいセックスだ。
「ああ、気持ちいいわ」
 その玲子の言葉のなかには、「はやくイキなさいよ」という嫌悪感がふくまれていた。そして、物理的な肉の摩擦のすえに、あっけなくジュンが射精して終わりになった。
 制服に着替えようとして、ケンタはカバンをひっくり返していた。ケンタがカバンの中身をぶちまけたので、玲子がそのなかにまぎれている写真を手にとった。
「これ、彼女なの?」
「いえ、彼女ってわけじゃ……」
「童貞卒業計画の、最初のターゲットだったんです」
 とジュンが口をはさんだ。
「会ってみたいわね。名前は?」
「ハルミですが」
 時刻は六時をまわっている。玲子は時間を気にするふうでもないが、ケンタとジュンは彼女の夫が帰宅したらどうなるのかと、気になって仕方がなかった。帰ろうとした時だった。
「待って。ケンタくん、スケジュールを入れておいてちょうだい」
「スケジュール、ですか?」
「ケンタくんは何曜日がいいの? いま、火曜日の午後が空いてるのよ。あのカフェテラスに来てくれるわよね」
「は、はい。よろこんで!」
「ぼ、ぼくは?」
 とジュンが急かした。
「あなたは、残念だけど不合格ね。シャワーをちゃんと使わなかったでしょ。それに、人の逢瀬を激写するなんて、信用できないしね」
「そんなぁ」
「その代わり、ハルミちゃんを連れて来なさいよ。集団でするのが好きみたいだから、4Pならやってもいいわ。火曜日の午後にね」

(つづく)
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ミステリアス官能巨編 『危険なボディ』 連載第26回
                           高輪茂

 真の恋愛は死の観念をありふれた、容易な、少しも怖くないものにする。(スタンダール『恋愛論』断章46)

【前回までのあらすじ】25歳の銀行員・有馬大輔は派遣会社のシステムエンジニア・三好奈緒美に憧れているが、彼女の素顔がわからない。40歳の飯沼次郎は自動車メーカ―から販売会社に派遣されたエリートだが、趣味のスポーツバイクで知り合った名も知らぬ女性が気になっている。還暦をむかえた福原総一郎は、飯沼の会社のイベントを手がける代理店社長。彼はいきつけの酒場のパート店員に、高校時代の記憶の女を重ね合わせている。仕事で接点のある三人が、それぞれに憧れる想い人は、30歳ほどの美女なのである。

第六章 彼女の正体


 福原総一郎が高校生だった頃の話を、金田義雄と荒井佐知子の一件をまじえて話すと、飯沼次郎は得心したようにうなずいた。
「そこで私は、彼ら二人がまだ生きていると信じてるんですよ。たしかに葬儀にも出ましたし、墓に詣でてもおります。しかしですよ、遺体とかは見てないんです。たしかに骨壺は見ましたが、本当に彼らのものとは限らない。中に何が入っていたかも確かめたわけではない」
「夏だったんですか? 亡くなられたのは」
 と、飯沼が興味をしめした。
「そう、九月だったのに、酷い暑さでした。まるで今年みたいな」
 福原には単なる言葉ではなく、網膜に刻印されたような風景の記憶である。
「なにしろ酷い暑です。水死ですから、じつは顔も何も判別できなかったんですよ。頭のいい彼らのことだ。金田義雄も佐知子さんも、成績は学年ではトップクラスでしたからな。あの二人は授業中の勉強だけで、予備校の補講に通ってる連中よりも、ずっと成績が上だったんだ」
 などと、思わず興奮していた。
「ちょうど、今から四十四年前の夏です。飯沼さんは、まだ生まれておりませんな」
「はぁ……」
「彼らが、そう金田が二十八で佐知子さんが二十七の時の子だとしたら、真理亜は……。いや、その三好奈緒美はちょうど三十四歳ということになる」
 単純な数の足し引きにすぎなかったが、福原には大きな意味が感じられた。彼の心の中には、たしかに金田義雄と荒川佐知子が住んでいるのだから。
「飯沼さん。私の娘は三十二歳、息子の嫁がやはり三十三ですわ。いえね、金田と佐知子さんが生きているとしたら、ウチと同じように子供がいるはずだと」
「福原さん。福原さんは、その真理亜という女性と、その……、行くところまで行ったんですか? 真理亜というよりも、三好奈緒美ですが」
 ようやく気分がほぐれたのか、飯沼がやや饒舌になってきた。もともと彼は、他人を飽きさせない饒舌の持ち主なのである。
「いえいえ」
 と、福原は首をふった。
「肌にも触れておりませんよ」
「そうですか。私は肌を合わせましたが、お恥ずかしいことに出来ませんでした。彼女の強さに、私のアソコが怯えたと申しますか……」
 などと、飯沼は男の恥を口にしてはばからなかった。それも彼の誠実さだと、福原は受け止めたかった。
「そこなんですわ、飯沼さん。じつは年齢なんです」
 と、福原は話題を転じた。
「私の信念としてですな、年輪を刻むと同時に賢くなって成熟するのが人間であろう、と。だから、自分の娘や息子とと同じ歳の女性では困るんですな。いい歳をして、娘か息子の嫁と同じ歳の女と……。真理亜が四十台ならいいのにと、そう念じたこともありましたな」
「なるほど」
 ひとしきり思い出話に興じたあとは、具体的に何をするかという問題が彼らに残されていた。
「三人で計画的に、相手を撃滅するという方法もありますぞ」
「福原さん……」
 と、飯沼があきれた顔をした。
「いいですかな、飯沼さん。奈緒美さんにおびき出させておいて、われわれ三人で襲撃する。これは有馬君の復帰を待たなければ、三人というわけには参りませんが、大いに可能です」
 飯沼は面白がって聞いているが、本気で取り合う様子ではない。
「では次に、襲撃に成功した後のことですが……。私が事件を背負いましょう」
「事件を背負う、とは?」
「そう、われわれの若いころは、よくヤクザがやってたものです。さっき話した金田義男もそうです。佐知子さんと二人で、時効まで逃げようとしたんですから。その代わりに、私が事件を背負った以上は、私と奈緒美さんとの逃避行を、おふた方に支援していただきますぞ。金銭的にも、人脈的にも」
「……はぁ」
 と、飯沼はふたたび無口になっていた。
 そんな荒唐無稽なことを考えているうちに、福原の頭にある考えが浮かんできた。相手を殺すのが技術的にも法律的にもむずかしければ、あえてそれを避けて目的を達することは出来ないものか。
「飯沼さん、いいことを思いつきましたぞ。あなたが付き合ってくれたお蔭だ」
 と、福原は立ち上がった。
「敵を殺しもしない、もちろんこっちも死にはしないし、法律的に危ういことも避けられる。そんな方法があるんです、ちょっと組織的な協力が必要だとは思いますが」
 さすがに危険な話にウンザリしていた様子の飯沼も、もう少しは聞いてもいいという表情になっている。楽に勝てる方法があるのなら、それは一番いいと彼も思っていたのだ。
「いいですか、偽装です。偽装して、相手の想像を越えたことをしでかす。これです」
「それは、どんな方法です?」
「いや……」
 もう福原は、それ以上のことを口にしなかった。
「もうしわけない。これ以上は、またの機会に教えます」
 いくら女房を帰宅させた事務所で、誰も居ないとわかっていても、それは口に出せない計画だった。
「それから、そのヤクザは何という組織ですが。三次団体と言われましたが、代紋は?」
「代紋……? ああ、六代目猪口組の黄道会の下部組織で、浅香組というそうです。浅香浩二というのが親分で、奈緒美さんをつけ狙っている張本人だと」
「なるほど。猪口組の末端組織、浅香組ですな」
 と、福原は念を押した。
 彼はこれから津田沼のマンションに、真理亜こと三好奈緒美を訪ね、自分に出来ることをすべて話すつもりなのである。彼女の肌に触れるかどうかは、まで誘惑と理性のはざまで迷うのを感じた。

(つづく)
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 ∧_∧       
(・ω・` )_
O┬O ) /   
◎┴し'-◎ ≡   
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