東北まぐ19号 2013年2月
ローカルメディアの挑戦、まちの達人たちの知恵、未来を創る子どもたちのまなざし。東北のいまを全編レポートでお届けします
東北まぐ
地福寺の参道を照らすろうそく(宮城県気仙沼市)/撮影「ともしびプロジェクト」
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はじめに
 まちを見下ろす高台にある神社の境内。受験を控えた中学生たちが、神妙な面持ちで手を合わせています。地震の直後に水が押し寄せ、夜半には炎にのみ込まれた彼らのふるさと。夜が明けるとともに、煙が立ち上るがれきの中へ躊躇なく飛び込んで行った救助隊と医療チームの姿が、彼らの脳裏に焼きついています。「僕も彼らのように、人の役に立つ仕事に就きたいんです」
 震災を機に決意した思いを胸に、彼らは東北のまちの希望の光として、今あたらしい世界へと踏み出そうとしています。
 一人でも多くの方が東北に足を運ぶきっかけとなることを願って。東北まぐ、第19号をお届け致します。
 
復興へのみちのり
~沈黙のまちに新しいメディアを創る~
復興へのみちのり
カメラを手にした、大槌のおばあちゃんたち。「私の宝物」をテーマとした写真展開催に向け、クラウドファンディングサイトで支援を呼びかけ中(撮影:大槌みらい新聞)。
復興へのみちのり
古民家のリビングが編集部。元茨城新聞の記者・松本さんが現場責任者として大槌に常駐する。
 
復興へのみちのり
カレンダーの1日1日に町の方の顔写真が写る「町民カレンダー」。「別の仮設住宅に離れてしまった、かつてのご近所さんの元気な様子がわかった」など、好評。
 
復興へのみちのり
創刊号から4号の紙面を手にした、学生インターンの木村さんと現場責任者の松本さん
   東日本大震災の大津波を受け、町長をはじめとする役場の幹部40名が行方不明となった岩手県大槌町。町の広報機能が停止したうえ、地元をカバーしていた夕刊紙も廃刊となり、情報を得る事も発信する事も出来ず、震災後は「沈黙のまち」と化していた。
 こうした状況を改善するため、ジャーナリスト育成を行う「日本ジャーナリスト教育センター(運営代表藤代裕之、略称:JCEJ)」と、ボランティア情報をネットで集約・発信しているNPO法人「ボランティアインフォ(代表:北村孝之)」が中心となり、「NewsLabおおつち」を設立。
現場責任者には、元茨城新聞の記者でメディア事業部長も歴任した松本裕樹さんが就き、大槌の新しいローカルメディア「大槌みらい新聞」の発行が昨年8月よりスタートした。
 この日の大槌は、雪模様。山すその住宅街にある「NewsLabおおつち」の拠点を訪れると、古民家の玄関で松本さんが出迎えてくれた。「えーと、ここが編集部になるのかな」と笑みを浮かべる松本さんが、石油ストーブの置かれたリビングへ案内してくれる。机の上に置かれた「大槌みらい新聞」第4号の1面には、大槌高校3年の臺(だい)隆裕くんがトランペットを吹く横顔の写真が、大きく掲載されている。「1面には、この町の若い人たちを取り上げることにしているんですよ」と言いながらバックナンバーを見せてくれた。読みやすい大きな文字とシンプルなデザイン、スポーツ雑誌の表紙や海外紙のような、斬新なアングルの写真が目をひく。松本さんは「取り上げる人物の表情や息づかいを伝えようとおもったら、こういう紙面になった。これでもまだ、思い切りが足りないぐらい」と笑う。

 「小さなメディアだからこそ出来ることはたくさんある」というJCEJ藤代運営代表の言葉の通り、「紙」で町民への情報提供を行う一方、WebサイトやTwitter・Facebookを使って外に向けての情報発信を行っている。全国の新聞記者の協力を得て、津波当時の聞き語りを記事にした連載(津波証言)もスタートさせた。運営費のねん出にクラウドファンディングを利用するなど、様々なメディア、新しい仕組みを積極的に活用している。
 さらに「町民レポーター」の育成にも力を入れている。従来は、情報を受け取る側であった町民に、自ら発信してもらう事が狙いだ。学生インターンの木村愛さんらは当初「町民レポータになってもらえませんか?」と、仮設住宅のおばあちゃん達に声を掛けて回ったが、「そんな難しいこと、私には無理よ」と渋い反応だったという。
 そこで、町民向けの「写真のワークショップ」を定期的に開催し、カメラの楽しさに触れてもらい、身近な出来事を撮って、いい写真が撮れたら見せてほしい」とお願いした。すると、仮設で時間を持て余すリタイヤしたお父さんやおばあちゃん達が、身の回りの様子をカメラに収め、「撮れた写真を見てほしい」と、声を掛けてくれるようになった。「いつ、どこで、何があった時の写真ですか?」と木村さんらが聞き取りを行い、簡単な記事にまとめてFacebookページに投稿する。自分の撮った写真や記事にたくさんの「いいね」やコメントが付くのを見て、「情報発信すると何が起きるか」ということを体験してもらった。いまでは「写真や投稿が楽しくて仕方ない」と話す町民の方が、日々カメラを片手に町を歩く姿が見られるという。こうした、大槌町民の視点で撮られた写真を集め、東京、横浜、大槌の三か所で写真展「大槌の宝箱」を開催する予定だ。
 震災後、大槌のために頑張りたいという中高生の声が増えたという。一方で、地元雇用の受け皿が少なく人口流出が進んでいる。まちの産業を立て直すためにも、支援者や企業の協力は不可欠だ。その為にも、継続した情報発信は重要な課題となる。
松本さんは、大槌みらい新聞の取り組みを ”サッカーチーム”に例えて話してくれた。「Jリーグの各チームが地元でサッカー教室を熱心に開いて若手を育て、その裾野を広げながらチームづくりを進めているじゃないですか。地域メディアも似た形で展開できればと考えています。住民が広く主体となって情報発信するお手伝いを、これからもいろんな形で進めていきたいですね」(岸田浩和)

Information
「大槌みらい新聞」
Webサイト
http://otsuchinews.net
Facebook
https://www.facebook.com/NewsLabOtsuchi
写真展「大槌の宝箱」
https://readyfor.jp/projects/takarabako
 
行って来ました東北!
まちの達人に学ぶ!「まちフェス」
行って来ました東北!
まちフェス実行委員会のメンバーと事務局長の阿部結悟さん(中央)
 「ショウガンセ~ショウガンセ♪」数え唄を口ずさみながら、お手玉をリズミカルに投げる”みっちゃん”。軽やかな手さばきに、参加者から歓声が上がりました。
 東日本大震災で被害を受けた沿岸部の宮城県亘理町・山元町、福島県新地町では、現在「まちフェス~伊達ルネッサンス~」と題して、一ヶ月に渡りまちの「達人」が講師をつとめるワークショップが開かれています。企画されているのは、「もじもじ農家妻とつくる、サツマイモde新作ジャム」(津波被害を受けた畑で収穫されたサツマイモのジャム作り教室)や、「ハイ!伊達コプター」(ヘリコプターに乗って被災地を見る)など24種類のプログラムです。
 この内、先月19日には亘理町荒浜の鳥屋崎地区で、おしゃべり好きなお手玉の達人、”みっちゃん”こと武田光子さん(71)によるお手玉教室が開かれました。阿武隈川河口に近いこの地区は、仮設住宅や町外に移り住んだ人も多くいます。武田さんは「今日は久々に皆の顔見んもんね、いつもは皺だらけだば、今日はばっちりアイロンかけてきました~」とジョークを飛ばしました。
 「まちフェス」の実行委員会は、町に住むもしくは復興支援に携わる二十代から三十代の若者で作られています。事務局長を務めるのは阿部結悟さん(23)。「震災をきっかけに外から応援に大勢の人が来てくれたけど、そもそも自分自身は町の事全然知らなかったよねって気付いて。だから住民が町の事を深く知ってつながって、自分達で立ち上がるきっかけを作りたいというのが、もともとの思いです」
 阿部さんは山元町出身。震災を機に大学を休学し故郷に戻りました。「『達人』っていっても、すごい専門家じゃなくていい。こんなに元気にやってると地元の人が前に出る、『人』を外に発信する場にしたいです」
 取材に行ったこの日、「東北の湘南」とも言われる温暖な気候の亘理町では、珍しく雪が綿のように積もっていました。「まちフェス」は、早くも今年8・9月に第二弾を開催する案が進行していて、新たに参加してくれるスタッフ・達人を募集中です。「まちフェス」に関わる人達の町への思いは、雪の下で春を待つ新芽のように花を咲かせようとしています。(平沼敦子)
 
行って来ました東北!
お手玉の達人”みっちゃん”こと、武田光子さん(左)
 
行って来ました東北!
この日のお手玉教室には約20人が参加。
 
行って来ました東北!
宮城名物「ずんだもち」の差し入れも。
 
Information
「まちフェス~伊達ルネッサンス~」
(~2月14日) ※事前申し込み制
https://www.facebook.com/machifes
 
東北だより
震災より間もなく2年。東北の被災地では地元の人たちが主体となった情報発信の取り組みがスタートしています。「東北だより」では、各地に根ざしたローカルメディアの記者たちの協力を得て、地元発の小さなニュースをお届け致します。

元気なこども達。未来は僕等の手の中から
東北だより
「子どもまちづくりクラブ」の報告会。子どもたちが今年一年の活動をふり返って、発表を行った。
 昨年4月よりスタートした石巻経済新聞。全国や海外の75以上の都市が加盟する「みんなの経済新聞ネットワーク」の一つとして、宮城県石巻市を中心とした、まちのニュースをインターネット上で配信しています。本紙では、地元から広く市民記者を募集しており、多くの市民記者が日常の中で発見した素敵な石巻のニュースを投稿しています。

 石巻の人もそうでない人も多くの人が繋がりながら石巻の価値や魅力を皆に伝えることが、ここでは起こっています。しかし、こうした新しい交流は決して大人たちの間だけで、発生していることではありません。今月は石巻の未来を担う元気な子どもたちの取り組みを紹介します。
 
東北だより
テーマは「上を見上げて思いつく絵」。絵本作家・荒井良二さんのワークショップの一コマ。
 
東北だより
石巻の子どもたちが、元日本代表・小笠原満男選手ら10名のJリーガーとサッカー交流。
 
東北だより
映像制作ワークショップ「ITキャンプX雄勝」が開催。自ら撮った映像を、編集まで行う。
 
東北だより
「海がキラキラ光ってる。きれいだなぁー」ふるさと雄勝の海や自然を、iPhoneやiPadを使って撮影した。
 
Information
「石巻経済新聞」
http://ishinomaki.keizai.biz/
「ITキャンプ×雄勝」
http://www.tetsu-law.jp/
theday/report_007.html
   国際NGO団体、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが震災後に行った「子ども参加に関する意識調査」では、被災3県に暮らす1万人以上の子どもたちがアンケートに参加。「自分のまちのために何かしたい(87%)」「自分のまちをよくするために、人と話をしてみたい(77%)」など、積極的な回答が寄せられました。こうした結果をもとに2011年の7月にスタートした、「子どもまちづくりクラブ」の報告会が、ここ石巻で開催されました。当日は、小学生から高校生まで、幅広い年齢の子どもたちが参加。今秋には石巻立町商店街に「子どもセンター」が完成し、子どもたちが計画、運営に関わる予定です。
(石巻で「子どもまちづくりクラブ」報告会-活動振り返る)

 石巻では子どもたちのものづくり熱も高いです。昨年12月に開催された絵本作家の荒井良二さんが地元の子どもたちと旗をつくるワークショップでは多くの子どもたちが集まり旗を作成しました。荒井さんも「石巻の子どもたちは大人よりも先頭に立って行っている印象を受けた。このまま、大人たちを引っ張って行ってほしい」と期待を寄せていたのが印象的でした。
(絵本作家・荒井良二さん、子どもたちと旗作り-石巻でワークショップ)

 そして年が明けた1月5日には、「東北人魂サッカーフェスティバルin石巻」が黄金浜ちびっこ広場にて開催されました。東北出身のJリーガーたちと地元の小学生を中心とする子どもたちが、サッカーを通じて交流。岩手県出身で鹿島アントラーズで活躍する小笠原満男選手をはじめとする現役Jリーガーが駆けつけ、芝生広場は賑やかな子どもたちの声で溢れました。
(東北人魂を持つJリーガー、石巻で子どもたちとサッカー交流)

 ITと自然を掛け合わせた新しい教育の取り組みも始まっています。石巻市雄勝町では、子どもたちを対象にした映像ワークショップ「ITキャンプ×雄勝」が開催されました。雄勝小、飯野川第二小の子どもたち14人が2日間にわたり、雄勝の各地でiPhoneやiPadを駆使して映像を撮影。自分たちで編集したものを最終日に発表しました。
(石巻雄勝町で映像制作ワークショップ-小学生対象に開催)

 多くの大人たちとの交流や、受け入れざるを得ない環境の変化、そしてもともとここにあった豊かでありながら厳しい自然、それらと真正面から向き合いながら子どもたちは成長していきます。我々大人たちが将来の復興を担う人材に対して、できることはまだまだあるのではないでしょうか?そんなことを考えさせられるような記事がたくさん並びました。
(石巻経済新聞 勝 邦義)
 
東北からの”お便り”のコーナー
東北からの”お便り”のコーナー
気仙沼の地福寺にある参道を、キャンドルでライトアップさせてもらいました(写真提供:杉浦恵一)。
 
今月のお便り「私の好きな東北の冬景色・・・」
 今回は、気仙沼市を拠点に全国で活動する「ともしびプロジェクト」さんからのお便りです。
「写真は、宮城県気仙沼市の地福寺の境内をキャンドルで照らした光景です。雪の降り積もった月夜に、あたたかなろうそくの光が周囲を照らしています。私たちのプロジェクトでは“忘れないをカタチに”を合い言葉に、キャンドルを通して東北の被災地と世界を繋ぐ活動を続けています。毎月11日に、東北だけでなく“あなたのいるそれぞれの場所”でキャンドルに火を灯し、FBページにその写真を送ってください。震災で亡くなった方への鎮魂と、東北復興の祈りをキャンドルを通して1つに繋げます」
 
Information
「ともしびプロジェクト」
Webページ:http://tomoshibi311.com/
フェイスブック:https://www.facebook.com/tomosibi11
次回のタイトルは、「わたしの好きな東北の味」
あなたが好きな、東北のグルメの写真とエピソードを投稿してください。
スィーツ、お土産、郷土料理、食堂の何気ないメニューなど、写真にひと言コメントを添えて、メールかツイッターでご応募おねがいします。

お寄せいただいたお便りの一部は、誌面で紹介する予定です。

 メールはこちら
 ツイッターでの投稿は、ハッシュタグ#tohokumag_otayoriでお願いします。
 
 
 
【東北まぐ】 2013/02/11号 (毎月11日発行)
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