東北まぐ29号 2013年12月
希望の牧場ふくしま、父の意志継ぐ亘理の味「かとうや」、大川小児童のファインダー/KPJ、ツールド東北、東北JAM、白謙蒲鉾店の笹かまぼこほか
東北まぐ
「希望の牧場・ふくしま」の牛舎(福島県南相馬市、浪江町)
はじめに
 いまだ、平穏とは言いがたい日常の中、自らの手で苦労を重ねながら一筋の光に向かって歩み続ける人たちがいます。その道は、決してやさしいものではありません。わずかな光は時には雲に遮られ、足下が暗闇に覆われる事もあります。しかし、彼らは見失う事なく力強い足取りで歩み続けています。
 彼らはいつも、わたしたちに教えてくれます。「希望」とは、簡単にやってくるものではない。苦労してたぐり寄せ、自らの手でつくり出すものなのだと。

 皆さんが、東北に足を運ぶきっかけとなる事を願って。東北まぐ、第29号をお届けします。(岸田浩和)

行ってきました東北
希望の牧場・ふくしま
その先にある希望に向かって
牛たちの世話に奔走する吉沢正巳さん
 
 雲間からさす陽光が、目の前の牛舎の屋根に向かって降り注いでいます。虹のかかる雨上がりの牧草の上を、牛たちが悠々と闊歩しています。
 ここは、福島県浪江町と南相馬市の境にある「希望の牧場・ふくしま」です。震災で事故を起こした福島第1原発から14キロの地点にあります。周囲の道路には、警戒区域を示す立ち入禁止の看板が点在しています。

 事故後、原発から半径20kmのエリアは立ち入り禁止となり、たくさんの家畜が取り残されていました。ここに住む畜産家の吉沢正巳さん(59)は、政府が打ち出した家畜の殺処分方針に同意しませんでした。「人間の都合で、牛たちを無駄死にさせたくない」という吉沢さんは、自治体から業務の継続という理由で立ち入り許可を得て、自身の牛だけでなく、近隣農家の牛も引き取り、ボランティアらとともに世話を続けています。

 本来の価値を失った牛たちなので、牧場の収入はありません。寄付金で経費をなんとかやり繰りし、汚染されて使い道の無くなった牧草やスーパーの売れ残りの野菜などを集めて牛たちに与えています。「無人となり荒れ始めた田畑や里山を放牧に利用すれば、保全にも繋がる。汚染地域内で閉じた環境を作る事で、約20年と言われる牛の寿命を全うさせることも可能」と考えています。最近では、汚染地域に生育する牛たちを記録し、科学的な根拠として後世に生かそうとする、学術的な取り組みも始まっています。

 「深い深い絶望の先にも、希望が見えるかもしれない」という吉沢さん。周囲からの賛否や厳しい経済事情も承知の上で、自らの信念にしたがい活動を続けています。「おれは牛飼いだから、出来る事は1つしか無い。残された人生をかけて、牛たちの寿命を全うさせてやろうと思うんだよ」(岸田浩和)
 
 
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Information
「希望の牧場・ふくしま」Blog
http://fukushima-farmsanctuary.blogzine.jp/blog/
 
行ってきました東北
父の思い受け継ぐ『そば』の味 かとうや
行ってきました東北
母・恵子さんも店を手伝い、二人三脚での営業
 
 阿武隈川の河口近く、堤防沿いの県道を車で走ると、清々しい藍色ののれんが目に入ります。亘理町荒浜で80年以上の歴史を持つ、食堂の「かとうや」。カツ丼や亘理名物・はらこめし(季節限定)なども提供していますが、看板メニューは店主・磯田美恵さんが毎朝打つ、細めの手打ち蕎麦です。
 
 堤防のすぐそばにある「かとうや」は、津波による大きな被害を受けました。津波は堤防を乗り越え、店は1.7メートルの高さまで浸水。壁は突き破られ、業務用の冷蔵庫も隣の家の敷地へ流されました。震災後、住民の多くが避難し、周辺は空き家が目立つようになりました。そうした中でいち早く店を再開させたのが、美恵さんの父、故・俊一さんでした。「父の代までは出前もやっていて、あっさりとした中華そばが人気でした。津波で一階にある店は、手が付けられない程ぐしゃぐしゃの状態になりました。でも父は『誰かが戻って来ないと、みんな戻って来られない。また人が集まるきっかけにしたい』と、建物を改修し店を開けたんです。」(磯田美恵さん)

 営業を再開したのは、2011年12月。ところが一ヶ月も経たない内に、俊一さんは製麺機に巻き込まれる事故で亡くなります。父が元通りにしてくれた店の明かりを消すことは出来ない。当時美恵さんは地元で教師をしていましたが、父の遺志を継ぐため蕎麦打ちの修業をし、去年7月、手打ち蕎麦を出す店として再度「かとうや」を復活させました。

 蕎麦のメニューの中でも人気なのが、「肉そば」。麺が見えなくなるほど、たっぷりの豚バラ肉がのっています。肉の旨味が出ているであろう黄金色のつゆを一口飲むと、意外にもあっさりとした味わい。かけやもり蕎麦と違い、「肉そば」には父・俊一さんの作り方を受け継いだ秘伝のガラスープを使っているのだそう。昔からのお客さんにとって、名物だった中華そばの味を思い出させてくれる一品です。

 現在荒浜地区では、震災を受けて阿武隈川の堤防のかさ上げ・拡幅工事の計画が進められています。「かとうや」は、店のある場所が立ち退きの対象になったため、今月いっぱいでこの場所での営業を諦めざるを得なくなりました。二度も復活した店ののれんを下ろすー。震災から2年9ケ月経って迫られた、苦しい決断です。美恵さんがお店の今後について語りました。「津波でも流されず、父が頑張って残してくれた店を閉めなければならないのは、とても悔しいです。移転するにしても、場所探しをどうするのか、何年かかるのか。これからの事は白紙状態です。ただ、今のお店には、仮設住宅や引っ越した先から『懐かしいね、かとうやの味だね』ってわざわざ通ってくれる人達もいました。ここでの営業は年内までですが、最後まで出来る限り、お客さんに足を運んでもらえるような蕎麦を打ちたいと思っています。」(平沼敦子)



 
行ってきました東北
国産の蕎麦粉を使い、その日の分だけ蕎麦を打つ
 
行ってきました東北
あっさりとした味わいの「肉そば」(850円)
 
行ってきました東北
父の味への思いが記された貼り紙
 
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Information
「かとうや」
住所:宮城県亘理郡亘理町荒浜103-1
(亘理町立荒浜小学校すぐ側)
電話番号:0223-35-2428
営業時間:AM11:00~PM3:00
(※蕎麦なくなり次第終了)
定休日:不定休
今年12月31日まで営業予定
http://www.omisejiman.net/katouya-soba/

東北マップ
キッズフォトジャーナル
発信を続けるキッズ記者の思い
キッズフォトジャーナル
撮影した写真に記事をつける只野哲也君
 
 前回の3/11キッズフォトジャーナル(以下、KPJ)の東北まぐ掲載から2ヶ月半が経過した11/23、私は大川小学校事件東京集会に参加すべく、東京都の明治大学を訪れていた。会場には、大川小学校に通い被災したKPJ石巻支局長の只野哲也君(14歳)も震災遺構への思いを述べるため、上京していた。宮城県石巻市に位置する大川小学校は震災当時104名の児童が通っていたが、津波による死者・行方不明者は74名にのぼる。津波から生還した児童は僅か4人で、当時小学5年生であった哲也君もその中の1人だ。
 甚大な被害を出した大川小では、時間があったにもかかわらず学校の裏山へ避難せず、なぜこれ程に多くの犠牲者を出してしまったのか、未だ解明されていない。震災後の市教委の対応は被害者遺族の気持ちを蔑ろにしたもので、遺族を置き去りにした検証が進められている。唯一生き残った教諭が口を閉ざす中、メディアの前に立ち、発信を続ける哲也君はこう語った。

 「話したくてもまだ話せない友達がいるから代わりに自分が話しにきました。津波で妹や母、祖父、近所の人もみんな死んでしまったけど、すぐには悲しみはこなかったです。今、辛さが来ていますが、父や祖母、友達や先生に励まされ、人の関わりが大事なんだと感じています。大川小には5年間の思い出が詰まっています。誰も大切な物を壊されたくはないし、瓦礫という言葉も好きではないです。たとえ流されたものでも写真とか、他の物も瓦礫とは呼んで欲しくない。震災の記憶は薄れていくが、小学校を見ると思い出す事ができるし、友達などの流された人々の生きた証というんでしょうか。被害0は難しいかもしれないけど、後世に伝え、同じ過ちを繰り返さないために、大川小を震災遺構として千年後にも残して欲しいです。自分が伝えたいのは命が大切だという事です。最近イジメとかがあるけど、同じ人はいないし、無駄な人なんていない。命を大切にして欲しいです。」
 カメラが並ぶ中、緊張しながらも自分の言葉で発する哲也君の姿からは、彼が震災から顔を背けず、真摯に過去と向き合ってきた事が垣間見える。他者への感謝を述べ、震災を超えイジメの問題など、命の尊さを訴える哲也君の思いは、こういった模索の中から生まれてきたのであろう。普段、私たち大人は一つの事案に対して考察を行い、対処していく。だが、哲也君の言葉はもっと大きなスケールから出てきた根源的な問いかけだ。前回の東北まぐへの寄稿では「次世代へ繋ぐのは彼らの世代」と述べさせてもらったが、今まさに哲也君の視点が必要とされているのではないだろうか。

 KPJは昨年度の活動として、『3/11 Kids Photo Journal写真新聞』を岩手・宮城・福島の各3県版で発行している。その他にも来年1月の中国におけるフォトフェスティバルや、3月の日本写真家協会との写真展が決定しており、現在、準備を進めている。
 また、今年度も1年の活動をまとめた刊行物を発行予定で、哲也君を始め24人のキッズ記者達の視線は復興に携わる人々や、生活を立て直すために奮闘する肉親へと向けられている。子供達が写し出した被災地の今を伝えるストレートな写真を、多くの方々に見て頂きたい。(塩田亮吾)
 
行ってきました東北
只野哲也君の書いた記事。文章校正が入り、次からの取材に備える。
 
行ってきました東北
岩手県版3/11キッズフォトジャーナルの一部。
 
行ってきました東北
丸森支局の太田あま音さんは味噌蔵を営むお父さんを取材。
 
行ってきました東北
家の跡地も資材で埋もれると思うと心が痛む。(石巻支局/只野哲也)
 
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Information
・3/11 Kids Photo Journal
(キッズフォトジャーナル)
http://kidsphotojournal.org/wordpress/

 
東北だより
行こう!石巻
東北だより
「ツール・ド・東北」開催に合わせて、結成された地元商店の応縁団。また来て欲しいという思いが溢れています。
 
東北だより
石巻経済新聞が編集部を置く中央商店街地区で活動中の高校生による情報発信活動「くじらステーション」のメンバーたちも登場しています。
 
 日がな日も短くなり、寒さも増した石巻ですが、11月はとても熱いイベントが沢山開催された月でした。

 なかでも「ツール・ド・東北2013 in宮城・三陸」は、全国から約1300人を集め、3連休を迎えた石巻に多くのサイクリストたちが、自慢の自転車を携えて訪れました。私たち編集部もプレスのゼッケンを背に160キロメートルのグランフォンドコースを完走し、沿道から沢山の声援を受け、途中のエイドステーショでは三陸のおいしいものをお腹一杯に補給し、とても感慨深いものがありました。来年も開催されるという「ツール・ド・東北」。多くの人に参加して欲しいと心の底から思ったイベントでした。
(関連記事:「ツール・ド・東北」初開催 全国から1300人が出走、地元名産に舌鼓)

 そして11月の終わりには、伝説の音楽フェスAIR JAMの意志を継ぐ「東北JAM2013」がここ石巻で開催されました。会場はスケートパーク・ワンパーク。東日本大震災で甚大な被害を受けた水産加工会社の冷凍倉庫を改装し、地元のスケートボーダーたちが手作りで作りあげたスケートパークです。会場は無料のフリーステージと屋内ステージで構成され、2日間にわたり熱い演奏が繰り広げられ、多くの観客が熱狂しました。
(関連記事:パンクロックの音楽フェス「東北ジャム」、石巻・ワンパークで開催へ)

 そして11月23日には東松島市、女川町、石巻市と含む広域石巻圏の浜の暮らしや豊かな文化を紹介する冊子「いしのまき浜日和」が発刊されました。リアス式海岸の複雑な地形をもつ石巻地方には、漁業を中心的な生業とした浜と呼ばれる漁村集落が各地に広がっています。そこには石巻地方の暮らしの原点があります。石巻経済新聞編集部や市内の活動団体とともに、取材・編集した浜に焦点を当てた冊子です。ガイドブックにもなるこの一冊を持って石巻を楽しんでみませんか。
(関連記事:石巻圏の浜の暮らしを紹介する本「いしのまき浜日和」発売)
 
東北だより
一日目のトリを務めたKen Yokoyama
 
東北だより
浜の暮らしと旅の本「いしのまき浜日和」
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Information
石巻経済新聞
http://ishinomaki.keizai.biz/

一般社団法人ISHINOMAKI 2.0
http://ishinomaki2.com/v2/aboutv2/



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今月のお取り寄せ
 
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1つ1つ小分けにされたパッケージには“極上”の文字が。

今月のお取り寄せ
プリプリの笹かまぼこは、何もつけずそのまま食べても十分に美味しい。
  ゴチまぐ!編集部
イチオシの理由は?

 今回は、言わずと知れた宮城県の名物、笹かまぼこをご紹介します。
 笹かまぼこというと宮城県の定番特産品として知らない人はいないだけに、地元には数多くのお店が立ち並び、競争の激しい商品でもあります。

 しかし、こちらの白謙蒲鉾店は大正元年以来約100年にわたって笹かまぼこを作っている老舗中の老舗。否が応でも期待が高まります。

 ということで早速編集部でも取り寄せて試食してみました。

 まず驚くのがその歯触りです。歯を押し返してくるようなプリプリとした食感はまさに絶品。噛めば噛むほど白身魚の旨みがじんわりと口の中に広がっていきます。

 もちろん、そのまま食べるもの美味しいのですが、ちょっとだけ表面をあぶり、ショウガ醤油をつけて食べればビール、日本酒が止まりません。

 ご飯のおかずや小腹が空いた時のおやつとしても最適。ぜひ一度お試しください。

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お問い合わせ
・石巻 白謙蒲鉾店
http://www.shiraken.co.jp/shop/g/g1002/
 
 
【東北まぐ】 2013/12/11号 (毎月11日発行)
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編集 :岸田浩和
取材 :岸田浩和、平沼敦子、塩田亮吾、関裕作
製作 :本村彰英
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