自国のタックスヘイブン化を周到に準備してきたアメリカ
そして、少し調べるとすぐに分かるが、アメリカは自国がタックスヘイブンになるための枠組み作りを数年前から周到に準備している。
2007年、スイスの国際的な金融グループUBSがアメリカ人富裕層の口座を国外の租税回避地に隠蔽していることが判明した。米政府はアメリカ人の口座の全面的な開示を求め、同様の隠蔽を行っていたクレディスイスを含む80もの金融機関に50億ドルもの罰金を課した。
こうした事件がひとつの契機となり、2010年には「外国口座税務コンプライアンス法(FACTA)」が制定され、2013年から施行された。
この法律は、アメリカの市民権を持つすべての人々に、保有する金融資産を「米国税庁(IRS)」に報告することを厳格に義務づけるとともに、米国内のみならず海外の銀行も、米国民の口座はすべて「米国税庁」に報告しなければならないとする法律だ。
もし米国民が国外のタックスヘイブンに秘密口座を持っていることがばれると、巨額の罰金が課せられる。
その後2015年9月には、「香港上海銀行(HBSC)」のスイス支店からおびただしい数の秘密口座がリークするという事件があった。その総額はおおよそ1200億ドル(14兆3000億円)で、口座の保有者には多くの著名人が含まれていた。
これまでスイスの銀行では口座所有者の秘密が保持されたため、本国で租税の支払いを回避したい富裕層の理想的なタックスヘイブンとされてきた。
だが「外国口座税務コンプライアンス法」の制定後、「HBSC」の事件なども手伝って、スイスの銀行はその伝統となっていた守秘義務を維持できなくなり、現在では最も透明性の高い金融機関になってしまっている。
そして2012年、OECD(経済協力開発機構)はアメリカの「外国口座税務コンプライアンス法」にならい、「共有報告基準」を成立させた。これはタックスヘイブンの出現を防止するため、各国が銀行口座、投資信託、投資などの情報をオープンにして共有するための協定である。
これまで理想的なタックスヘイブンとして見られていたシンガポールや香港を含め、97カ国が調印した。もちろん日本も調印している。
ところが、アメリカ、バーレーン、ナウル、バヌアツの4カ国だけが調印しなかった。アメリカはこの協定に入っていないのである。