プリンター本体の設計を変えて純正品のインクカートリッジだけしか使えないようにしたとして、互換インクを販売する会社などがブラザー工業を相手取り、設計変更の差し止めと約1,500万円の賠償を求めた訴訟で、東京地裁はブラザーに対し、設計変更は独占禁止法違反(不公正な取引方法)にあたると認め、約150万円の賠償を命じる判決を言い渡した。
報道によるとブラザー工業は、2018年12月以降に製造・販売したプリンターについて、インクカートリッジの読み取り機能の設計を変更。他社製の互換品を認識しないようにしていたという。
判決では、設計変更に関して「正当性はなく、市場での公正な競争を阻害するおそれがある。不当な抱き合わせ販売だ」と判断。設計変更で使えなくなった互換品を破棄しなければならなかった事情などをふまえ、ブラザーに賠償責任があると認めた。しかしその反面で、設計変更の差し止めに関しては、すでに変更に対応する互換品が開発されているとして認めなかった。
「安いが正義」だけじゃない消費者の視点
年賀状作りなどで活用する人も多い家庭用のプリンターだが、プリンター本体が原価ギリギリの低価格に抑えられているいっぽうで、定期的に交換が必要なインクカートリッジは高価格に設定され、それで儲けるという仕組みになっていることは、多くの方が知るところ。
とはいえ、サードパーティ製の格安な互換インクが広く出回ることによって、そういったビジネスモデルは当然のように立ち行かなくなるわけで、過去にはエプソンが「セキュリティのアップグレード」と称して、互換インクが使えなくなるようにしていたことが判明するなど、プリンターの製造会社側は「互換インク排除」のため、様々な対抗策を取ってきた。
このようなプリンターメーカー側とサードパーティ側のせめぎ合いだが、時には今回のように裁判まで発展し、過去には2007年にエプソンが、互換インクを販売するサードパーティに対し「特許侵害」として、販売差し止めを求めて訴える事態に。この裁判は、第一審・第二審ともにエプソンの特許を無効にすべしという判決が下り、最高裁がエプソンの上告を棄却したことで、サードパーティ側の勝訴となっている。
いっぽうで、今回の件のようにサードパーティ側がメーカーを訴えるケースもあり、2020年10月にはキヤノンが独占禁止法違反行為等差止等請求で提訴されている。
過去にあった裁判の結果や今回の判決を見ると、サードパーティ側に有利な判断が続いているようだが、メーカー側も日々新たな「互換インク排除」のための機能を開発し、その都度特許申請を行うなど対策に抜かりが無いようで、結局はイタチごっこの状況のようだ。
今回の件に対する消費者の反応だが、安価な互換インクが認められたことで、諸手を挙げて喜んでいる方が多いかというと、意外にもそうではない模様。サードパーティ製の互換インクだが、その品質に関しては玉石混淆といったところのようで、「やはり印刷の見た目は劣る」との声も。また、互換インクを利用していたところ本体が故障してしまったという経験の持ち主は結構多いようで、そのリスクを考えれば決してコスパが良いとは言えないし、自分は使いたくないといった向きも結構多いようだ。
非純正のインク、色が変なの多い気がする。実家で両親が互換インク使ってて『なんか色が薄い』と言うもんだから高くても純正使えと言った事がある。
— 猫池シンヤ (@Ara__no) October 1, 2021
互換インクなー。
正論ベースだと締め出すのは良くないというのは確かなんだろうけど、粗悪な互換インクとか詰め替え作業ミスとか原因のトラブル考えるとコスト面たぶん外野が思ってるより上がるとかあるんよなー(情シス経験者だと事業部門に互換インク絶対買わせない教の人多いんちゃうかな)— きよくらならみ (@kiyokura) October 1, 2021
うーん
プリンターを使ってる身として
非純正を使うとさ
プリンター本体が壊れることがあるんだよね
インクが詰まったり、基盤自体が壊れたり実際にあるからさ
純正インクだと壊たことは無いインク互換品、使用不可の設計「違法」 ブラザーに賠償命令:朝日新聞デジタル https://t.co/FGKu2fICcF
— ホロクラフト@ゲーム大好き紳士⚔️♂️ (@holo_claft) October 1, 2021
さらに、互換インク使用によってトラブルが起こった際、その問い合わせはプリンターメーカーに一定数行くといった指摘も。現に家電製品の口コミサイトを見てみると、互換インクの使用でノズル詰まりが発生したユーザーが、保証対象外ということで本体価格以上の修理料金を請求されてブチ切れているといった投稿もあり、こういった謂れのないクレームから解放されたいというのも、メーカー側が互換インクの排除に躍起になっている理由のひとつのようだ。
互換インクの問題って単純じゃなくて、エレコムのインクを使ってユーザーの期待と異なる印刷物が出てきた場合、クレームがブラザー側に一定割合で行くんだわ。
ブラザーは本体買ってくれてるお客さんである以上、最低でも問題切り分けまでは対応しなくちゃいけなくて文字数https://t.co/mETzXMDc5H— ななよんみけ (@743k) October 1, 2021
互換品使っておきながら「色が出ない」だの「インクが詰まる」だのと文句を言う先は互換品販売元ではなくプリンタメーカだったりするんだよな。そりゃメーカだって迷惑だわ。 https://t.co/DGMqzHQgJZ
— 下山嘉彦/渋谷区 (@yshimoyama) October 1, 2021
急増している非純正バッテリーの発火
このようなプリンターメーカーによる「消耗品で儲ける」ビジネスモデルだが、「替え刃モデル」とも呼ばれるように、20世紀初頭にジレットが交換式のカミソリを発明したことが発端で、現在ではこれら以外にも電動歯ブラシやウォーターサーバー、エスプレッソマシーンなど様々存在する。
ただ、比較的高価な正規品で儲けるビジネスモデルには、安価な非純正品の出現が不可欠なのはもはや明らか。家電製品全般でいえば、充電式で動く製品に用いられるバッテリーにも、そういった非純正品が結構出回っている状況だが、それらの使用には相当のリスクが伴うと叫ばれている。
2019年には、充電式電動工具用のリチウムイオンバッテリーが、充電中に爆発・出火する事故が発生。インターネット通販で売られていたそのバッテリーは中国製の非純正品で、充電もまだ2回目だったという。また最近では、同様に非純正のバッテリーを使用したコードレス掃除機が、充電中に異常発熱で出火するケースが増えているとも報じられている。
このように、下手をすれば生命にも関わる事態をも招きかねない非純正品使用のリスクだが、その点今回のようなプリンターのインクなら、運が悪けりゃ本体が壊れて修理代がバカ高くつくぐらいが関の山か。それぐらいなら、日々のランニングコストが安く済むほうを取るといった方も多いと思われるだけに、そんな需要に支えられる互換インク販売のサードパーティと、プリンターメーカー側とのせめぎ合いは、やはり今後も当分は続いていきそうだ。
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