では現代は?
もちろん、当時と現代とでは状況は根本的に異なっている。
しかし、バブルが崩壊して長期的な低迷期に入り、終身雇用制や年功序列などの伝統的な雇用環境が崩壊した90年代以降の日本でも、雇用の不安定な契約社員や派遣社員が激増し、所属する共同体のないネット難民化した人々が急増している。
そしていまの日本でも、そうした人々を強く引き付け、生きる目的を実感するひとつの手立てになっているのが、いまのスピリチュアリズムなのではないだろうか?神秘体験を通して神々とつながったカリスマの与える啓示や、または自分自身の神秘体験を通して神々の存在を実感し、自分という存在に新しい意味を与える方法だ。
スピリチュアリズムを利用するであろう安倍政権と日本会議
そしていま、このような日本版スピリチュアリズムがつながる先は、「ハイアーセルフ」や「高次元存在」のような普遍的な存在ではなく、日本の神々へと急速にシフトしている。
このシフトにともなって、日本を神国「ヤマト」として崇め奉り、その国の一員としての国民を神の子孫である天皇の「赤子」とする心的傾向がかなり強くなっている。
日本人は神の「赤子」なのだから、世界のどの民族からも隔絶した特殊な存在であるというわけだ。これが孤立し生き方に迷う人々のプライドの根拠となる。
さて、現在の安倍政権とその背後にいる「日本会議」は、憲法改正を急いでいる。それは戦争放棄をうたった9条の改正に限定されるものではない。個人の存在を国家に優先させた主権在民の現行憲法を、神聖な天皇制国家に国民を臣民として組み込む自民党憲法草案の方向での全面的な改憲を最終目標にしている。
しかし、先に書いたように、現代日本の市民社会は、国民を越えた国家の神聖性などという概念を受け入れる素地はほとんどない。いまだにこの概念は戦前の過去の遺物として見られている。
だがいま、古代の日本の神々とつながり啓示を得る方法がスピリチュアリズムの主流になりつつあるとき、天皇制国家の神聖性は自明のものになる。
その神聖性は、記紀神話を感じることを通して、直接的に体験できるものになりつつある。
おそらく憲法改正を急ぐ安倍政権と「日本会議」は、現代の日本のこうしたスピリチュアリズムを全面的に利用し、政権基盤の一部として取り込むことだろう。