ジョージ・ソロスが懸念する本当の危機
マーケット・ウォッチは、6月9日、立て続けに2本の記事をアップしました。
それは、「ファンド・マネージャーは、中央銀行が次のリーマンショックを引き起こす瞬間を恐怖している」という記事と、「伝説の投資家ソロスは、再びトレードに戻って難局に備えている」という記事です。
ソロスのようなヘッジファンドが、ある程度の規模で保有株を売るということは、コストの負担を伴います。
利益確定ができたのであれば、信用取引で発生する金利を支払っても益出しに成功したことになりますが、そうでない場合に手仕舞いをしたということになれば、損切りですから、ソロスのトレードは失敗です。
トレードが成功したかは別にして、このタイミングで株式を売って金の現物を購入しなければならなかった事情とは、大きな財政危機が差し迫っていることをソロスが確信したと考えていいのです。
たとえ損切りしようとも資金を金に移し変えて緊急避難させる必要が迫っていたからだと。
ソロスが、こうした大きな戦略転換を図ったのはインフレを懸念しているからでしょうか。それは、各国の通貨の購買力が減価されることを意味します。
通常、株価とインフレは連動するので、あえて冒険せずとも、いわゆるディフェンシブ銘柄を保有していればインフレに対するリスクをヘッジしたことと同じ効果が出るはずです。
ソロスは、それにも見向きもしなくなったということは、残すところ「市場の崩壊」ということになるのです。
マーケット・ウォッチの2本の記事を読む限り、ソロスが特に懸念していることの1つは、EU離脱を決める23日の国民投票であることは間違いありません。
しかし、ソロスが心配しているもう1つの大きなことは、シリアを始めとする中東からの難民流入でなく、グローバリズムによってEU地域内で人と労働力の移動がさらに活発になり、英国民の職が奪われることによって経済が停滞すると同時に暴動が起こるリスクが高まることです。
なぜ、英国民はサッチャーに対して抗議デモを行うのでしょう?
鉄の女、マーガレット・サッチャーこそが英国を産業の労働から解放し、“金融帝国として食べていけるようにしてくれた恩人”ではなかったのでしょうか?
サッチャーの新自由主義は、ウィンブルドン現象という言葉で言い表されます。
サッチャーは、ロスチャイルドのロンドン・シティーと英国王室の命を受けて、「ビッグバン」と呼ばれる大規模な金融市場の規制緩和を果敢に進めた結果、ロンドン・シティーの金融支配をいっそう強め、伝統ある英国の地場産業を次々と空洞化させていったのです。
この新自由主義を信奉している学者たちは、例外なくロスチャイルド、モルガンなどの国際銀行家の利害関係者です。
サッチャーの経済政策は、彼女が心酔していたフリードリヒ・ハイエクの新自由主義に基づくものです。
ハイエクの理論は、「市場で何が起こっても政府が介入しなければ、自ずと秩序が形成されていくものであるから、どこまでも市場を信頼し、任せておけばいい」というものです。
フィリップ・ロスチャイルドからの聴き取りによって「アトラス・シュラッグド」を著したアイン・ランドが提唱していた自由放任主義経済「リバタリアニズム」と同じです。サッチャーは、それを知っていたのでしょうか。