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ミセス・ミキタニの「楽天ポイント」意外な苦戦と天下取りの条件=岩田昭男

右肩上がりで売り上げを伸ばす

1997年に創業した楽天はネットショッピングを核に急成長し、ここ数年の業績も右肩上がりで伸びています。たとえば、2012年度に約4000円億円だった売上収益は2015年度は約7135億円に大幅に増えています。

EC(イー・コマース)流通総額(取扱高)は2兆7000億円(2015年)に達します。この流通総額ですら、アマゾンの1070億ドル(2015年)という10兆円を上回る巨大な売り上げに比べるとかなり見劣りします。

しかし、創業20年足らずで1兆円の売り上げが視野に入った急成長企業であることは間違いありません(ちなみに、アマゾンの2015年の日本での売り上げは82億6400万ドルで1ドル120円換算で約1兆円です)。

その大きな要因の一つが、創意工夫にあふれたポイントの施策にあったわけです。ポイントに関するじつに多彩なプログラムでおトクを提供し、顧客を引き付けました。その結果、ネットリテラシーの高い優良の顧客をしっかりつかんで、囲い込みに成功したのです。

楽天ポイントの動きをよく見てみると、貯めたポイントが外に出ていくことはなく、楽天経済圏のなかをぐるぐる回っていて、顧客もそれで満足している、というのが大きな特徴です。そんな仕組みがあって継続的な売り上げの伸びが可能になったのです。

楽天のよきライバル、ヤフー・ジャパン

業績についてはアマゾンを比較しましたが、楽天にはアマゾンだけではなくヤフーという強敵がいます。ヤフー・ジャパンは日本のIT企業の草分けです。

2013年、ヤフーはカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と組んで、Yahoo!ポイントをCCCの共通ポイントのTポイントに統合し自らO2O(オンライン・ツー・オフライン)を始めたのです。ネットからリアルへの拡張です。

全世界的に、成熟したウェブ事業者たちは、ネット市場からいよいよ未開拓のリアルの市場に出ていこうという動きが出てきたころでした。ヤフーはもともとアメリカの企業ですからそういう流れに敏感です。

ヤフーは日本ではネットショッピングで大きく出遅れていました。今でも検索サイトというイメージが強いのではないでしょうか。

しかし、検索サイトだけではあまり収益は上がりません。そこでなんとか企業の体質を変えたい、楽天のようにネットショッピングで収益を得られるようにしたいと思ったのです。そこにちょうど出てきたのが、O2Oという新しいコンセプトでした。

「ウェブ事業者は、これからはリアルとネットの合計で評価される時代がやってくる」という考え方で、それを千載一遇のチャンスとみたヤフーはリアルの協力を得ながら、ネットに邁進すれば、やがてはライバルの楽天を打ち破ることができると計算したのです。

その意味で、ヤフーの先見性には舌を巻きました。また、目のつけどころがよいと思いました。

ただ、そのためには、外に出ていかないといけません。そこで、白羽の矢を立てたのがリアルの店舗ネットワークを多く持っているTポイントだったのです。

Tポイントは当初は単なるレンタルビデオ屋のポイントだと思われていたのですが、自力がありました。また、ヤフーと結びつくことで、周りの見る目、つまり商店街の店主の見る目がガラッと変わって営業はやりやすくなっていきました。

私はその現場を目撃したことがあります。小田急沿線のある商店街でのことでした。商店会全体がTポイントの加盟店になるという話が浮上したのですが、反対意見が強くてなかなかまとまりません。

商店主たちが集まって最後の話し合いをしていた時です。年長の商店会長が立ち上がって「いくら話し合ってもきりがない。あのヤフーさんが付いているんだから、大丈夫。やりましょう」という一声で、Tポイントに加盟することが決まったのです。

「ヤフーと一緒だから安心」というメッセージは効きました。それ以来反対していた商店主も次々と加盟店になり、その商店街では多くの店にTポイントの端末が設置されました。

そのときくらいヤフーの人気をすごいと感じたことはありません。ブルドーザーのTポイントと軍師役のヤフーが上手に役割分担してうまくやっているのをこの目でみたのです。

ヤフーもそのおかげでたくさんのリアルの店舗と強いつながりを持つことができるようになり、ネットショッピングも急速に拡大していきました。その意味では、ヤフーとTポイントの組み合わせはO2Oの成功事例として、今後長く記憶に残ることでしょう。

さらに、面白いことに、O2O実現するために、協力を求められた共通ポイントでしたが、日本では何故か、この業態だけが大きくブレークすることになりました。いつのまにかO2Oはどこかに吹き飛んでしまい、今では共通ポイントがeコマース事業者、携帯キャリア、流通業者などの間で将来のリテールを作るネットワークとして大きくクローズアップされています。

Next: 楽天経済圏からリアルへの進出を阻む「共通ポイントの高く険しい壁」

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