円高は本当に悪なのか?今、日本人に笑顔が戻りつつあるという皮肉=斎藤満

円高、物価下落に救われた個人消費。日銀の総括検証を機会に、アベノミクスも、円安や物価高を目指すことが日本経済のために本当に良いのか等、総点検する必要があります。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年8月31日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。月初のご購読は得にお得です。

家計消費に「天の恵み」となった円高と物価の再下落

最大の問題は個人消費の弱さ

個人消費の弱さが景気の大きな制約になっていることは、政府も認識しています。アベノミクスが「道半ば」とする大きな要素は、個人消費が低迷を続けていることにあります。

実際、安倍政権になってからの家計消費をGDP統計でみると、2013年度こそ消費税前の駆け込みもあって増加しましたが、14年度以降は名目でも減少が続いています。

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例えば、14年度は消費税が引き上げられ、その分価格が高まったのですが、名目の家計消費は0.7%減少(物価上昇を引いた実質では2.8%も減少)、消費税の直接的な影響が抜けた15年度も0.5%減少し、16年度に入っても0.5%の減少が続いています。

その原因は、消費税の圧迫の他、アベノミクスの下でも賃金が増えなかったうえに、税社会保険料負担が増えたことです。

減った収入と増えた税負担

実際、総務省の「家計調査」で月平均の所得内容を見ると、家計の実収入が2000年の508,984円から2005年の473,260円、2010年の471,727円、2015年の469,200円と減少傾向にあるうえ、税・社会保険料負担が2000年の79,646円から2005年にはいったん74,404円に減少した後、2010年81,879円、2015年には88,007円と高まっています。

実収入に占める税・社会保険料の負担割合は、2000年の15.6%から2015年には18.8%に高まっています。

それだけ「可処分所得」が圧迫されているわけで、可処分所得をこの5年ごとの動きで見ると、2000年の429,338円以降、398,856円、389,848円、381,193円と、実収入以上に減少がきつくなっています。

名目の可処分所得が減少傾向にあるうえに、最近は年金の減額がはじまり、さらにインフレにするぞとの政策による脅しやマイナス金利策で預金の減少不安まで生じたために、家計を防衛的な貯蓄に向かわせ、消費性向が低下していることも消費を抑える形になっています。

安倍政権の戦略変更と「天の恵み」

安倍政権としても、さすがに消費の弱さを放置できなくなり、戦略変更をしてまで消費刺激に注力し始めました。

所得格差、低所得者の苦悩を考え、最低賃金の25円引き上げ住民税を払えない年金受給者に1人1万5千円の給付を決めるなど、手を打ち始めました。政府が期待した「トリクル・ダウン」が空振りとなり、所得、資産格差が拡大したことの穴埋めです。

そこへ、家計の消費に「天の恵み」となったのが、円高物価の再下落です。

Next: 家計を犠牲にする円安や物価高は本当に良いことなのか?

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