アメリカ車を買わせるより簡単
こうした構図が明らかだとしたら、したたかな「ビジネスマン大統領」が、中国に北朝鮮への圧力をかけさせ続けることで「核実験と大きなミサイルの発射」は封じ込めつつ、「小さなミサイルの発射」は黙認し、日本でのTHAAD導入機運を高めさせようという戦略を描いたとしても不思議なことではない。
今回のTHAAD韓国配備費用10億ドルの負担については、トランプ大統領は韓国側に負担させる意向を見せていたが、とりあえず米国側が負担する方向に落ち着きそうな気配となっている。しかし、日本のTHAAD配備費用を米国が負担する可能性は低いといえる。
昨年の日本の対米貿易黒字額は、自動車関連の526億ドル(約5兆8400億円)を中心に689億ドル(約7兆6500億円)と、中国に次いで2番目になっている。このような自動車関連を中心とした多額の貿易赤字が、日本の非関税障壁によるものではないことを「ビジネスマン大統領」が理解していないわけはない。
そして当然、対日貿易黒字を縮小するためには、日本に米国車を買わせるより防衛装備品を買わせるほうが、はるかに現実的かつ効果的であることも知っているはずである。
日本に対する「北朝鮮の脅威」は終わらない
「北朝鮮の体制を転換させる目標はない」
4月9日にティラーソン米国務長官はこのように発言している。もし、この発言が本当ならば、米国が北朝鮮に対する軍事介入に踏み切る可能性はかなり限定的だといえる。米国が軍事介入に踏み切れば、結果として北朝鮮の体制が転換してしまうからだ。
トランプ大統領が描いているシナリオは、北朝鮮に「核実験と大きなミサイルの発射」以外の手段での瀬戸際外交を続けさせ、日本での北朝鮮脅威論をより高めることかもしれない。
「F35を数百万ドル(数億円)も値下げしてくれた」ことを喜んでいる安倍総理は、トランプ大統領がF35の数百万ドルの値引きを餌に10億ドルのTHAADを購入させるシナリオを描いているとは想像もしていないのかもしれない。
「核と長距離弾道ミサイルは許さないが、小さなミサイルはどんどん撃て!」
政治経験のないトランプ大統領の外交・安保政策には戦略がないなどと、これまでの常識に基づいてもっともらしい批判する政治の専門家たちが、「ビジネスマン大統領」のしたたかな戦略の餌食になる日もそう遠くはないのかもしれない。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年5月2日)
※太字はMONEY VOICE編集部による
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