一つは、素朴な疑問なのですが、多くの外国人観光客に来日してもらうには、日本の物価が相対的に安いほうがいいわけです。ですので、訪日観光客の需要への期待を政策の柱にしてしまうことは、デフレ脱却を真剣に望むことと矛盾してしまわないのでしょうか。
「観光立国」などという言葉をここ数年、よく耳にしますが、デフレの継続を前提とした消極的な発想に基づいているような気がしてなりません。あまり元気が出る政策ではないと、個人的には感じます。
もう一つは、こちらが今回のメルマガで主に言いたいことですが、外国人観光客の呼び込みを重視することは、どうしても彼らの観点を意識することになり、日本人が本当に愛着の持てる街づくり、国づくりが行えなくなってしまうのではないかという点です。
先ほど触れた銀座の街の変容は、この一つの例でしょう。爆買いの中国人観光客を手っ取り早く呼び込もうとした結果、先人が長い時間をかけて培ってきた「洗練された」「高級感あふれる」「落ち着いた」銀座のイメージが、残念なことに、かなり損なわれてしまいました。
先日、藤井聡先生が、本メルマガに「ポケモンGO」の流行に対する懸念についてお書きになっていたことが思い出されます。
※「ポケモンGO」と「国土学」=内閣官房参与 藤井聡
藤井先生のご指摘の通り、それぞれの土地には、そこに根差して暮らしてきた人々が時間をかけて培い、大切にしてきた歴史的、社会的な「意味」があります。
そうした意味を、人々が共有しているからこそ、郷土愛や郷土意識、人々の同胞意識が育まれ、村や町、ひいては国が成り立っているわけです。
「観光立国」などの名の下に、外国人観光客の目を過度に意識した街づくりや国づくりが盛んに行われてしまうようになれば、日本のそれぞれの土地で、先人たちが慎重に培ってきた歴史的、社会的意味が損なわれてしまうのではないかと心配になります。
それが損なわれれば、結果的に、人々の郷土愛や郷土意識、同胞意識にも悪影響が及ぶのではないでしょうか。