fbpx

企業経営者が国家予算削減を迫るのは自分の首を絞めるも同然

企業と国民経済

『週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』 Vol.299より一部抜粋

企業にとって、費用削減は常に正しい。企業の目的が「利益の最大化」である以上、人件費を含む費用を削り、利益の拡大を狙うのは当然だ。

また、企業にとって、生産性向上は常に正しい。企業の目的が「利益の最大化」である以上、労働者一人当たりの生産を増やそうとするのは当然だ。

問題は、企業にとって「善」である費用削減や生産性向上が、「国民経済」に不利益をもたらす「時期」があるという点だ。

すなわち、総需要が伸び悩むデフレ期である。

ノーベル経済学者のポール・クルーグマン教授が、コラムで、「お金の面で成功しているということは、経済が実際にどう動くかを知っているということではないか?本当のところ、答えは『ノー』だ。(14年11月10日 現代ビジネス)」
と書いていた。クルーグマン教授の真意を理解すると、現在の経済政策の混乱の本質が見えてくる。

上記のコラムにおいて、クルーグマン教授は、
「ビジネスリーダたちは、問題を抱えている時期には特に、経済についてとてつもなく間違ったアドバイスをすることがよくある。そしてその理由を理解することが重要なのだ」
とも書いている。

ビジネスで成功した経営者が特に勘違いをしがちなのだが、国民経済において、生産されるモノやサービスの消費者は、そのほとんどが「生産者自身」なのである。

どういうことか。

企業にとってビジネスの顧客(企業、消費者等)は、その多くが「会社の外」の人々である。すなわち、企業の従業員ではない。もちろん、従業員が自社製品、自社サービスを買うケースもあるだろうが、全体から見たらわずかな割合に過ぎない。

すなわち、企業にとって所得を稼ぐ相手は「会社の外の膨大な人々」なのである。露骨な書き方をさせてもらうと、企業が人件費を削減したとしても、従業員の志気にはともかく、売上にはほとんど影響しない。それどころか、費用削減により利益は増える。

給 料を引き下げられた従業員が、自社製品・サービスを購入することを控えても、誤差程度の影響しかない。それに対し、「国民経済」というマクロな視点で見る と、消費者のほとんどは生産者である。生産者の所得が削られていくと、消費者としてモノやサービスの購入が困難になる。結果、生産者の所得はますます削減 されてしまう。すなわち、デフレが深刻化する。

所得とは、国民が生産者として働き、製品やサービスという付加価値を生産し、誰かが消費、投資として支出して初めて創出される。国民経済全体を鳥瞰すると、生産者と消費者は同一人物なのだ。

人件費削減ですべての企業の売り上げが減少する

そ して、国民経済における「最大の消費者」は、政府である。日本政府の場合、何しろ年間の予算は100兆円規模だ。「企業の感覚」で国民が政府に予算を削る ことを求め、政府が応じると、影響は日本国内の広い範囲に渡る。より具体的に書くと、政府の支出から所得を得ている無数の企業の所得が減少してしまう。総 需要が拡大しているインフレ期にはともかく、デフレ期に政府が企業の所得を引き下げる政策を打つと、更なる消費、投資の減少を、つまりは所得の縮小をもた らすだけである。

あるいは、政府が国内の労働者の実質賃金を引き下げる政策を講じると、「会社の外」の膨大な数の生産者の所得が減ってしま う。「膨大な数の生産者」は、「膨大な数の消費者」でもある。実質賃金引き下げ政策で、人件費を削減することができた企業は一時的には喜ぶかもしれない が、何しろ自社の従業員のみならず「膨大な数の消費者」の所得が減少しているのだ。当然、消費者の所得減少を受け、売上や利益が激減する企業が続出する羽 目になる。

無論、企業経営者が短期的な利益を追求した場合、人件費削減で利益を拡大することは可能だ。「ビジネス」という視点で見れば、人件費削減は正しい経営手法なのかも知れない。

ところが、ミクロ(個別)の企業にとって「所得(利益)」を増やす合理的な人件費削減が、国民経済というマクロに合成されると、中長期的には「全ての企業の売上が減る」という、実に非合理的な結果をもたらしてしまうのである。いわゆる、合成の誤謬が発生するわけだ。

多 くの経営者は、特に株主資本主義が蔓延した国の経営者は、視点が短期化する。彼らにとって、自分たちは懸命に費用を削減し、利益を捻り出している以上、財 政赤字を積み重ねる政府は許されざる存在に思えてしまう。特に、長引くデフレで売上を増やしにくい環境下で、日々、苦労を続けるビジネスリーダたちは、尚 更そう思ってしまうのだ。

というわけで、国民経済のパイであるGDPが増えにくいデフレ期であるにも関わらず、経営者たちは政府に対し、「政府は無駄遣いをやめろ。支出を切り詰め、増税し、財政を黒字化しろ」と、圧力をかける(かけている)。

経営者たちの圧力を受け、実際に政府が増税や公務員削減、公共投資削減といった緊縮財政を実施すると、多くの国民の所得が減少し、企業の製品やサービスが売れにくくなる。

製品やサービスが売れなくなると、業績が悪化した企業の経営者は、なおのこと費用の削減に苦しみ、財政赤字を増やす政府が許せなくなり、「政府は無駄遣いをやめろ」と、更なる緊縮財政を要求する。デフレはさらに深刻化し、話がいつまでたっても終わらない。

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~

[月額660円(税込) 毎週土曜日]
日本の新聞・テレビなどのマスメディアでは、上記のフレーズがあたかも「常識」のように使われている。本メルマガでは、正しい数値データに基づき各種の「嘘の常識」を暴き、ボトルネックを取り去ることで、日本経済が着実な成長路線を進めるようコンサルティングを提供する。大人気Blog『新世紀のビッグブラザーへ』著者、三橋貴明が綴る必読参考書です。

いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー