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日本人の賃金はなぜ「バブル期以来の人手不足」でも伸びないのか?=斎藤満

「生産性上昇率」の低さがネックに

賃金が上昇しない理由として、1つ考えられるのが、「生産性上昇率」の低さです。賃金上昇の源は生産性の上昇です。労働生産性が1%上昇すれば、賃金を1%引き上げることが可能になります。そこでは賃金を引き上げても収益を圧迫しません。逆に言えば、生産性が上がらなければ賃上げもできません

この労働生産性が、米国でも日本でも上昇率が低くなっています。米国ではこの1年の生産性が0.5%しか上がっていません。日本の場合、日本生産性本部調べの生産性は近年マイナスも見られますが、単位労働時間当たりの生産で見ると、年率1%程度の上昇となっています。日米ともに、これでは2%の賃上げなど望めません。

より深刻な日本の現状

しかし、ここから日米で対応が異なります。米国は0.5%の生産性上昇の中で、人手不足から平均時給が2.5%増加しています。この結果、企業の「単位労働コスト(ULC)」は2%の上昇となります。ULCが上昇した場合、企業がこれを製品やサービス価格に転嫁すると、物価上昇、インフレが生じ、価格転嫁できないと企業収益が悪化します。米国では価格転嫁企業が多く、2%弱のインフレになり、収益は堅調です。

一方の日本ですが、3月の現金給与が0.4%減少すると同時に、労働時間が1.9%減少しているので、時間当たり給与は1.5%程度の増加となります。単位労働時間当たりの生産を生産性とすると、これが最近1%程度上昇しているので、企業の単位労働コスト(ULC)は0.5%程度の上昇となります。米国の2%よりは低いのですが、その分インフレ圧力も低くなります。

日本も米国も、生産性の低い伸びが制約となって賃金が上げられないのですが、米国の場合はまだ価格転嫁が可能なほど、市場に力があるので、ULCを高めるほどの賃上げをしてもある程度価格転嫁で吸収できます。しかし日本の場合は、イオンの岡田社長が言うように、値上げによる業績悪化の経験をしているだけに価格転嫁に慎重になり、その分ULCを上げられません。

日本の場合、人件費が固定費の面が大きいところへ労働時間が減っているために、ゼロ賃上げでも「時給」が上がってしまい、それを生産性でカバーできないと単位労働コスト(ULC)が上がってしまう形になっています。

したがって、労働時間が減らない程度に需要や生産が拡大すれば、結果的に「時給」が低下し、生産性は逆に上昇の可能性があり、企業に賃上げの余地が生まれます。

目先ではなく長期の対策が必要に

もっとも、一時的な需要追加では企業も賃上げに踏み切れないでしょうから、より長期ビジョンで需要拡大が見込めるようなプランの提示が必要になります。

今からでも企業が納得するような人口対策(結婚、出産を奨励するもの)に手をつけるか、年金改革で将来不安を払しょくさせるか、何かしらの長期プランが必要です。
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・米利上げとトランプ政権の対応(5/8)
・北朝鮮問題を考える(5/1)


※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年5月10日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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マンさんの経済あらかると』(2017年5月10日号)より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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