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アップルが選んだ「日の丸規格」スイカは世界のデファクトを目指す=岩田昭男

5月12日に『Suicaが世界を制覇する アップルが日本の技術を選んだ理由』(朝日新書)という新刊を出しました。滑り出しは好調のようでほっとしています。

しかし、私は楽観はしていません。Apple Payが上陸して半年が経ちますが、いまだに「Apple Payはどのスーパーに売っているのか?」といった声を聞きます。鳴り物入りで始まったブームでしたが、アップルやカード会社の徹底した鉗口令で、思ったほど盛り上がっていないというのが私の実感です。

でもまだ始まったばかりですから、Apple Payの全てを書いた私の本がその普及と盛り上がりに少しでも貢献してくれれば良いと願っています。今回は、その中から「変わるモバイル決済業界」の一部を抜粋してご紹介します。(『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』岩田昭男)

※本記事は、『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』2017年5月15日号の抜粋・再構成です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:岩田昭男(いわたあきお)
消費生活評論家。1952年生まれ。早稲田大学卒業。月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。著書に「Suica一人勝ちの秘密」「信用力格差社会」「O2Oの衝撃」など。
岩田昭男の上級カード道場:http://iwataworks.jp/archives/12912

話題の新刊『Suicaが世界を制覇する』の一部を特別に無料公開!

SuicaがiPhoneに載った瞬間

そこに映ったのは、見慣れたペンギンのイラストだった。2016年9月7日(日本時間8日)、サンフランシスコで開かれたイベントにおいて、アップルは新型スマートフォン「iPhone7」を発表した。

壇上に立ったアップルのフィル・シラー上級副社長は、同社が手がけるモバイル決済サービス「Apple Pay(アップルペイ)」の日本での開始と、そのためにiPhoneをSuicaに対応させることを宣言した。

深夜のインターネットライブ配信で発表会の模様を見守っていた私は、画面に大映しになったSuicaを見て「これは革命だ」と思った。

2001年11月にJR東日本によって、サービスが開始されたIC乗車カード/電子マネーであるSuicaは、人々の生活の中でなくてはならないものになっている。2016年3月末現在で、その発行枚数は約5700万枚、利用可能店舗数は約34万店舗(JR東日本決算説明会資料より)。

同じIC乗車カードである「PASMO(関東地方を中心とする私鉄など)」や「ICCOCA(JR西日本)」、「TOICA(JR東海)」などとの相互利用もなされ、日本全国で利用可能なお化けカードだ。

【関連】それはジョブズの夢。日本のスイカが「世界共通乗車券」になる日=岩田昭男

グローバル規格から外れローカル規格に堕したSuicaの逆転劇

私は2005年に『電子マネー戦争 Suica一人勝ちの秘密』(中経出版)を上梓したが、題名にかかげたとおり、当時のSuicaはまさに無敵な存在に見えていた。

しかし予想に反して、その後の歩みは決して芳しいものではなかった。それどころか、消滅の危機にまでさらされていた、と言ったら驚かれるだろうか。

Suicaなど日本の「非接触ICカード」に採用された規格である「FeliCa(フェリカ)」(開発したのはソニー)は、実は日本の他はアジアの一部で使われているだけのローカル規格に過ぎない。

世界においては、欧米メーカーが主導している「NFCタイプA/タイプB」が主流だ。そのため世のグローバル化の進展の中で、近年は「日本でもNFCが主流になる」という声が高まっていた。

いつしかSuicaは、日本でしか通用しない「ガラパゴス」の象徴と揶揄されるようになっていたのだ。

こうした状況を脱するための起死回生の一策こそ、グローバルの権化ともいえるiPhoneへのSuica搭載だった。

その交渉から開発の過程は厚いベールに包まれていて、なかなかうかがい知ることができないが(「アップルから箝口令が敷かれている」とささやく関係者もいる)、私の取材によれば、JR東日本は背水の陣で臨み、グローバルとローカルのせめぎ合いの果てに、ついにその執念を実らせたのだ。

この間の動きを別の角度から眺めてみれば、決済の盟主交代劇の様相が浮かび上がってくる。これまで決済の主役は、VISAなどの国際ブランドといわれるクレジット会社が担っていたが、これからは代わりにIT企業になるというものだ。iTunesストアが音楽業界を席巻した、それと同じことが、決済の世界でも起こるかもしれない。

「ライバルは通信事業者だ」VISAラッセル会長の予言とは

1993年、私はVISAインターナショナルのチャールズ・T・ラッセル会長(当時)にインタビューする機会を得た。VISAの将来に関する私の問いに対してラッセル会長はこう答えた。「我々のライバルは通信事業者であり、コンピュータ関連企業だ」。正直、私はまったくピンとこなかった。

しかしあれから四半世紀を経て、ラッセル会長の予言は現実のものとなったApple Payはモバイル決済のスタンダードとしての地位を固めつつあり、ライバルのグーグルは「Android Pay」でその後を追う。もちろんVISAも指をくわえて眺めているだけでなく、NFCを利用した「pay Wave」という決済サービスの普及を図っている。

いまや業界は「決済三国志」とも呼ぶべき熾烈な競争の中にあるのだ。そしてそのキープレーヤーの立場にいるのがSuicaであることは、まぎれもない事実だ(ちなみに、Android Payにいちはやく参加した楽天の動きも気になるところだ)。

さて、かくしてSuicaにようやく世界進出の第一歩が記された。2017年以降に出荷されるNFC搭載スマートフォンのグローバルモデルには、FeliCa実装が義務づけられる見通しだ。

世界共通の交通乗車カード/電子マネーとしてSuicaが使われる可能性は大いにある。世界に「Suica経済圏」が確立される。

私はこんな未来図を思い描いている。2020年夏、東京オリンピックを見るために世界各国から日本を訪れた観光客たちが、空港の銀行窓口に行列をつくることなく、自分のスマートフォンを手に改札を通って目的地に向かう。喉が渇いたといえば、自動販売機にかざして飲み物を買う。それは決して夢物語ではない。

Next: じぶん銀行の新サービス「スマホでATM」が始まった本当の理由

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