2009年から始まったガスパイプライン計画
実は、この背後には米ドルの基軸通貨体制を揺るがすことにもなる重大な事態がある。それは、カタールのガス田とそのパイプラインをめぐる情勢である。
現在、エネルギー源としての天然ガスに注目が集まっている。それは、ヨーロッパや中国などで地球温暖化への配慮の必要から、石炭や石油にかわるよりクリーンなエネルギー原としての天然ガスへの需要が高まっているのだ。この動きは地球温暖化防止のパリ協定で、石炭の使用が大幅に制限されるに及んで本格的な動きになっている。
さらに、天然ガス液化の技術の急速な進歩により、広い地域にパイプラインで天然ガスを輸送することができるようになったことも、注目を集める理由になっている。
すでに何年も前から、このようなトレンドを見越して、世界のガス田の争奪戦が始まっている。5月にトランプ大統領はサウジアラビアを訪問し、集団安全保障条約であるアラブ版NATOの立ち上げを声明したが、これもガス田の国際的な争奪戦が背景にある。この争奪戦の標的になっているのが、カタール、イラン、ロシアだ。
2009年3月15日、当時まだ湾岸諸国との関係がよかったカタールのカルファ・アル・サニ首相はシリアを訪問し、アサド大統領にシリアを通るガスパイプラインの建設を持ちかけた。
これは、ペルシャ湾のカタールのガス田からシリアのアレッポを介してトルコに送り、そこからヨーロッパ市場にガスを輸送する計画だった。
だがシリアのアサド大統領は、ヨーロッパにガスを供給しているロシアの利害に抵触することになるとして、この提案を拒否した。ロシアとの関係を重視した決断であった。
ちなみにペルシャ湾のガス田は世界最大であるとされ、カタールではこれをノース・ドームと呼び、イランはこれをサウス・パースと呼んでいる。
ロシアとの2011年のパイプライン計画
その後、2011年7月に、ロシアの支援でイランのサウス・パースのガスをヨーロッパに輸送するためのガスパイプライン計画が調印された。これは、イランのガスをシリア、イラク、レバノンを通って地中海からヨーロッパへと運ぶ1500キロのパイプライン計画だった。これはフレンドシップ・パイプラインと呼ばれた。
だが、計画が発表された翌月の8月には、アサド政権の退陣を迫るアメリカ主導の安全保障理事会の決議がなされた。
そして同じ年には、アラブの春による民主化運動の影響という名目で、シリア国内で民主化運動が起こり、急速に内戦化した。内戦化した理由は、ISやアルカイダなどのワハビ系テロリストグループによるシリア侵入である。
これらのイスラム原理主義勢力をサウジアラビアは資金的に支援しており、サウジアラビアの外交政策実現のツールになっていることはよく知られている。
また2014年にアレッポはイスラム原理主義勢力の支配地域となり戦闘が激化したが、アレッポが戦場となった背景には、このガスパイプライン計画があったことは想像に難くない。
長くなるのでこの続きは次回にする。ここから、カタールの方向転換と中国の一帯一路経済圏の建設、そしてドルの基軸通貨体制を突き崩す本格的な動きが見えてくるのだ。
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未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ(2017年6月30日号)より一部抜粋・再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による
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