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大型銘柄を徹底ナンピンし、株券を“焼き捨てる”Tさんの投資術

顧客対証券マンの関係を超えて~T氏と23年ぶりの再会、最後の言葉

私は悟った。それこそ翻然と覚って豁然と目覚めた。金融資産は「売った買ったの短期売買」では決して構築できず、「バイ・アンド・ホールド(※9)の中にこそ出来上がるものだと。

本当に金融資産を構築するには、この人のように行動せねば駄目だと。

ニーチェの著作『この人を見よ』(手塚富雄訳 / 岩波書店 1969年)にこうある。「個人を強力な拡大鏡のように利用するのである。 <中略> はっきりと目に見えるようにするためには、この拡大鏡を利用するのである」。

それからの私は、Tさんを神のように尊敬し、彼の一挙手一投足までを凝視した。もはやTさんと私は顧客対証券マンの関係ではなく、人間対人間の関係で付き合いが始まった。

本来、転勤すれば顧客全員を後任者に引き継ぎ、付き合いを終えるのが野村のルールだが、私は“中途退学”だから幾人かの顧客とは人と人の関係で長い付き合いが続いた。前回のKさんも勿論その中の重大な位置を占める。

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1993(平成5)年秋。当時は現職の常務取締役として東京から北海道まで経営し、全社の経常利益の6割を所管していて長い休暇は取れなかったが、11月の連休4日間で、私の魂の道場であり精神の故郷たる紀州を訪ね、当時で25年を経る古い顧客を訪ねて歩いたことがある。

前回書いたKさんの墓に、御子息・姪御さんと共に墓参し、また紀北・華岡青洲の末裔の医師である顧客Iさんには和歌山市までご足労願い面会した。

それから急行で4時間ばかりを移動して勝浦を訪ね、Tさんと再会を果たした。私の想像通り、自律した老人で凛としていた。この人のように老いようと思った。

帰り際に「また来てねえ!」と何度も大きな声で叫んで手を振ってくれた。それが最後になった。それから3ヶ月後に彼は亡くなった。闘いながら死んでゆく英雄の末裔として、ヘミングウェイ『老人と海』のサンチャゴの姿を見た気がした。

Next: ナンピンは悪ではない! Tさんに学ぶ「株式資産構築 4つの掟」

※9 バイ・アンド・ホールド
長期的な成長が見込める銘柄・ポートフォリオを長期保有することでリターンを得る投資手法。ウォーレン・バフェット、ベンジャミン・グレアム、フィリップ・フィッシャー、ピーター・リンチなどが有名
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