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大型銘柄を徹底ナンピンし、株券を“焼き捨てる”Tさんの投資術

ナンピンは悪ではない! Tさんに学ぶ「株式資産構築 4つの掟」

私は野村入社後、先輩に勧められて『新株式実戦論』(木佐森吉太郎著 / 東洋経済 1969年)を何回も精読した。その名著は『孫子』(※10)を引き、クラウゼヴィッツ『戦争論』(※11)を引き、古典に若者を誘う一方、株式市場は売り手と買い手の闘いの場だと深く私に教えた。

『孫子』は本文20頁前後の薄い本で、漢文の響きの高い文体だから今でも殆どを諳んずる。岩波文庫の薄い本を満員電車の中で頁を繰れない状態で同じ箇所だけ読んでいると自然に暗記してしまった。それが無意識に時々出てくる。第四・軍形編にこうある。

「いにしえの善く戦う者の勝つや、勝ち易きに勝つ。そこに勇武なく智略なし」

昔から戦い上手な者は、勝ち易い方法で勝ってきた。故にそこには特別の武勇も智恵も要らない、と言うほどの意である。

「だから山崎さん、“人の行く裏に道あり花の山”ではなく大通りにある平凡な株がいいのだよ」と言ったTさんの言葉と同じだ。そういう銘柄でないと投信も年金資金も買ってこない。特別な掘り出し株を研究する必要はないんだよ、というTさんの金言だ。

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くわえて、金融資産の構築には、Tさんのように自律した精神が必要不可欠である。

私も若い頃から「自律」に憧れる一面があった。だから様々な書物――中学時代、英語教師に薦められた池田潔『自由と規律』(※12)、高校時代に読んだ井上靖『あすなろ物語』(※13)、大学のゼミ教授が三田評論に寄稿した、自由を求めて自律して生きる趣旨のエッセイなど――を通し、それを学んできた。

だが、間近で見たTさんの生き方ほど学び多きものはなかった。自律して自由に至る、このためにこそ金融資産は役立つのだ。なんと羨ましい生き方ではないか。

ケインズの弟子ハロッド(※14)も「市場におけるケインズの投機行動は彼の自由のための戦いだったのだ」と後の伝記に書いている。

【株式資産構築の掟 その1】
儲け易い方法でこそカネは貯まる。そして「バイ・アンド・ホールド」でなければ金融資産は構築されない

【株式資産構築の掟 その2】
方針を決め買った株は下がればナンピンする。また下がったらまたナンピンする。とことんナンピンする。私は居合術の高段位保持者で少々遣う(この場合の「少々」は「大いに」の意の謙遜常套語である、念のため記す)。その奥義は「抜かずに勝つ」「抜くな抜かすな」であるが、一旦抜いたら敵が懸かれば斬る、退いても斬る、待っても斬る、ただ斬るあるのみ、とある。とことんナンピンはこれである

【株式資産構築の掟 その3】
自律した生活の中にこそ儲けの種は芽生え、金融資産として構築される

【株式資産構築の掟 その4】
儲けたらTさんのように自律して生きる。ケチするのではない。自律的に生きるのだ

3人目となる次回は、哲人投機家たる木佐森吉太郎氏を取り上げたい。今度は頭文字のアルファベットでなく本名で書く。この人は私とたった二度会っただけだ。だが少々大袈裟に言えば私の人生を支配した存在である。

※10 『孫子』
紀元前、中国春秋戦国時代に成立した世界最古の兵法書。精神論を廃し現実重視の合理的な戦略・戦術を説いた。孫子の兵法

※11 クラウゼヴィッツ『戦争論』
プロイセン将軍のカール・フォン・クラウゼヴィッツが、ナポレオン戦争終結後の1810~1820年代に執筆。近代戦の戦術・戦略や戦争と政治の関係を精緻に分析し、後の軍事学や政治学に多大な影響を与えた

※12 池田潔『自由と規律』
著者自らが通った英国パブリックスクールの寮生活を題材に、厳格な規律の中で自由の精神が育まれていく様子を描く。ナポレオンを破ったウェリントン公は「ワーテルローの戦勝は(パブリックスクールの)イートン校の校庭において獲得された」と評した

※13 井上靖『あすなろ物語』
主人公・鮎太の人生に大きな影響を与えた女性たちとの邂逅を、少年期から壮年期までの6章にわたって描く成長物語。1つ目の物語では、美貌の大学生が13歳の鮎太に「君、勉強するってことは、なかなか大変だよ。遊びたい気持に勝たなければ駄目、克己って言葉知っている?」と問いかける

※14 ケインズの弟子ハロッド
ロイ・ハロッド(1900-1978)イギリスの経済学者。ジョン・メイナード・ケインズの愛弟子。1951年にはケインズ初の伝記『ケインズ伝』を執筆した

山崎和邦(やまざきかずくに)

山崎和邦

1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院特任教授、同大学名誉教授。

大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴54年、前半は野村證券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。

趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12を30年堅持したが今は18)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。

著書に「投機学入門ー不滅の相場常勝哲学」(講談社文庫)、「投資詐欺」(同)、「株で4倍儲ける本」(中経出版)、近著3刷重版「常識力で勝つ 超正統派株式投資法」(角川学芸出版)等。

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