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「史上最大のボロ儲け」天才ポールソンの手法から個人投資家が学ぶべきこと=田渕直也

ポールソンに先駆けた天才投資家の苦悩

マイケル・ルイスの「世紀の空売り」によると、このポールソンのアイデアには先駆者がいました。マイケル・バーリというヘッジファンド・マネジャーです。

バーリは、しかし先駆者であるが故の苦悩を味わいます。彼のファンドに投資している投資家たちは、住宅価格の下落と証券化商品の債務不履行に賭けるバーリの戦略に理解を示さず、無謀なディールから手を引くようにプレッシャーを与え続けることになるのです。

結果的に、ポールソンが史上最大級の大成功を収めて称賛を浴びる一方で、先駆したバーリは限定的な成功にとどまりました。二人を分けた最大の要因は、取引量の違いです。

ポールソンは、ソロスに影響を受けていて、この非対称の収益機会にできる限りのポジションをつぎ込もうとします。そして、そのために新しい専用ファンドまで組成しています。

ところが、このサブプライムローン・バブル崩壊に賭ける専用ファンドというアイデアも実はバーリが先で、でもバーリは投資家を説得することが出来ずにチャンスを逃していたのでした。

その原因の一つは、バーリの着想がポールソンよりも数か月早かったので、投資家の側に受け入れる準備が整っていなかったことだったと思われます。

バーリの苦闘は、一般投資家にとってバブルに抗うことがいかに難しいかということがその背景にあります。バーリやポールソンなど一部の投資家を除いて、専門家たちがこぞって住宅価格は下落などしない、だから証券化商品も大丈夫だと言い続けている中で、バーリの戦略を誰一人として理解できなかったのです。

一方のポールソンが大成功したのは、投資家へのセールス力があったということもあるでしょうが、時期がバーリよりも少し遅くて、バブル崩壊の兆しが見え始めた時期にあたっていたことが大きかったと思います。

さて、バーリの苦難はまだ続きます。

2007年初頭、ようやくバブルの崩壊が始まり、彼の購入したCDSが利益を出し始めると、彼のファンドの投資家たちは、すぐに取引を解消して利益を確定するようにバーリに圧力を掛けます。バーリはそのために、取引の一部を解消せざるを得なくなり、その後に起きた市場の崩壊による莫大な利益の一部を取り損なうことになります。

投資家たちの行動は後から見るとなんとも愚かに見えますが、これはプロスペクト理論から示唆される行動そのものですよね。成功するとは思えないバーリの取引に長いことつき合わされた投資家たちは、利益が生まれると、さらに利益を上乗せしようと思うのではなく、そのわずかな利益を失うことを恐れたのでした。

ちなみに、バーリは誰よりも早くこの天才的な戦略を思いついたにもかかわらず、あとから来たポールソンらの後塵を拝することとなったばかりか、ファンドの投資家たちとの関係も修復されなかったため、その後自身のファンドを閉鎖してしまったといいます。

Next: 個人投資家がポールソンから学ぶべきこと、学ぶべきでないこと

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