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住商巨額損失事件のウラ~私が元上司の「簿外取引」を通して学んだこと=江守哲

「現引き」で対処、積み上がっていく倉荷証券の山

先物市場や先渡市場で取引をしたことがある方はわかると思いますが、それぞれのポジションには保有期限があります。ある期日が到来すると、そのポジションを反対売買をして解消する必要があります。

しかし、その場で売ってしまうと、価格が下落する可能性があります。それを回避するにはどうすればよいかを考えるようになりました。

その結果、ロングポジションの最終取引日の期日が来た時に、そのポジションの代金を支払い、現物を引くことを考えました。いわゆる現引きです。

株式市場でもそうですが、ロングポジションはそのポジションのいわゆる丸代金を支払えば、その分の現物を引き取り、保有することができます。この考えを利用して、私はロングポジションの代金を支払い、現物を引くことを提案しました。

銅などの非鉄金属取引では、この場合の現物は厳密には倉荷証券(ワラント)と呼ばれるもので代替されました。ワラントは、ロンドン金属取引所(LME)が指定する世界の倉庫に保管されている現物の証書であり、これを倉庫に持ち込めば、実際にその現物を持ち出すことができるのです。

残されたロングポジションは大量にあり、ほぼ毎日のように期日が到来しました。その都度、ポジションの解消をしていたのでは大変なので、私はこれらのポジション分の資金を本社に出してもらい、現物を引くことを提案し、了承されました。

結果的に、毎日のように現引きを行うことになり、徐々に現物在庫の証書であるワラントの紙が積み上がっていきました。当時はこの証書は株券のように実存していました。現引きをやりすぎたことで、ワラントを毎日のように数える日々が訪れました。

ワラント1枚は25トン分の銅でした。LMEでの最低取引ロットは25トンで、1ロット分の現引きをすれば、25トン分の銅の代金を支払い、保有することになります。しかし、銅地金は25トンちょうどではありません。24.990トンや25.015トンなどの端数が発生します。その端数の計算をしたうえで、資金の出入りが確定するわけです。このように考えると、非常に煩雑なことをしていたことになります。

銅市場は簡単に「買い占め」ができる

その結果、私は日本人で過去にもその先にも、ワラントをもっとも多く数えた人間になったのでした。

そして、そのワラントを大量に抱えることになったことで、市場は混乱し始めました。住商がロングポジションをどんどん現引きしたことで、マーケットにおける現物在庫がひっ迫するようになったのです。

ここで私は非常に大きな経験をし、知識を得ました。つまり、資金さえあれば、銅市場は簡単にスクィーズ、つまり買い占めができるということです。

この作業を続けているうちに、気づくと住商は世界のマーケットに出回っているワラントの95%を超える銅現物を保有することになったのです。

つづく。


本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2016年10月31日,11月7日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。月単位でバックナンバーの購入もできます。

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江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』(2016年10月31日,11月7日号)より一部抜粋・再構成
本記事のタイトル・本文見出しはマネーボイス編集部によるものです

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株式・為替・コモディティなどの独自の市場分析を踏まえ、常識・定説とは異なる投資戦略の考え方を読者と共有したいと思います。グローバル投資家やヘッジファンドの投資戦略の構築プロセスなどについてもお話します。さらに商社出身でコモディティの現物取引にも従事していた経験や、幅広い人脈から、面白いネタや裏話もご披露します。またマーケット関連だけでなく、野球を中心にスポーツネタやマーケットと野球・スポーツの共通性などについても触れてみたいと思います。

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