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間近にみた「哲人投機家」 木佐森吉太郎は新人証券マンに何を語ったか

ついに叶った師との対話。哲人投機家・木佐森吉太郎は何を語ったか

『新株式実戦論』を耽読する私は何とかして、一度だけでも木佐森師に会いたいと思った。だがアポイントは取れない。そこで無礼を承知の上で、ある日曜日、勝手に自宅に押し掛けて行った。

応対いただいた奥様と思しき人に、意を決して切り出す。その時のやりとりは次のようであったと記憶している。

「先生に少々のお時間を頂いて、謦咳(けいがい)に接する事が出来ればと思って……」
「それはどういう意味でしょうか?」
「相場の心について一言賜りたいのです。一言でいいのです」
「なおいけません。木佐森は語らないし書きません
「それでは遠くからお姿を眺めるだけでも。それなら如何ですか」
「そんなことしてどうなります?」
「哲人というものは遠くから拝するだけで、何か得るものがある筈です」

しばらくの沈黙の後、奥様は私の真剣さに呆れたか、丁重に座敷に通してくれた。

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そこで初めてお目に掛かった木佐森師は、ごく普通の、穏やかそうな静かな佇まいの人物だった。眼光炯炯として鋭く、一瞥してヒトを射抜く愒眼の士を想像していたから、少々拍子外れの感があった。

とはいえ、「私の本を読んで、そんなことも解らないで来たか」と叱られそうで、しばらくは何も言葉を発せない。

私がやっとの思いで「先生のご本の本義を一言で尽くせば何でありますか」と絞り出すと、

それなら簡単です。本を捨て去ることです

と木佐森師は応じた。

「本を捨て去る、ですか。いま少しく解説を……」
時にはこの本から学び、時にはこの本を捨て去り、融通無碍(ゆうずうむげ)に動くことです。この本に縛られてはいけません

私にはこの一言で充分だった。その時、自分の顔が紅潮したのが分かった。

「お分かりのようですね」
「はあ、なんとなく……」
「なお宜しい。スイカが冷えているから食べてゆきなさい」

時間にしてわずか15分ばかりのやりとりだが、私にとって生涯忘れがたい師からの薫陶だった。

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