「雇用増加は見せかけ」アベノミクスとリフレ派の虚構を暴く=島倉原

記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2017年8月24日号「アベノミクスの虚構」より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです

プロフィール:島倉原(しまくら はじめ)
1974年生まれ。経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。1997年、東京大学法学部卒業。株式会社アトリウム担当部長、セゾン投信株式会社取締役などを歴任。経済理論学会及び景気循環学会会員。

アベノミクスの成果「雇用の改善」にはやはり大きなウソがあった

増加どころか、雇用は減少している

先日、ポスト・ケインズ派の経済学者で、同志社大学商学部教授の服部茂幸氏の著書『偽りの経済政策─格差と停滞のアベノミクス』を読む機会がありました。

同書は、日銀の異次元金融緩和後も停滞が続く、日本経済の現実を様々な角度から明らかにしています。その上で、責任逃れに終始して矛盾した言動を繰り返す、岩田日銀副総裁を筆頭としたいわゆるリフレ派、そして日銀執行部を批判しています。

本メルマガ読者の皆さん、あるいは拙著『積極財政宣言─なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』をお読みいただいた方からすれば、こうした議論は特に新鮮なものではないでしょう。

さはさりながら、読んでみて「なるほど」と思ったのが、同書第2章「雇用は増加していない」でした。同章では「雇用増加は見せかけ」という見出しを掲げ、以下のように述べています。

アベノミクスの成果としてよく指摘されるのが、雇用の改善である。民主党政権下で減少していた就業者数が、アベノミクスによって増加に転じたと、安倍首相が主張していることは、よく知られている。(中略)

しかし、「労働力調査」における就業者の定義は、調査の週に一時間以上働いた人である。日本にはサービス残業も含めて週六〇時間以上働くような人も少なくない。こうした人も週に数時間しか働かないアルバイトも、同じ就業者として扱われている。

経済学の上で正しい雇用あるいは就業の指標は、延べ就業時間である。(中略)

延べ就業時間は、いざなみ景気が始まる前には、大きく落ち込んでいた。しかし、いざなみ景気期は全体としてほぼ横ばいか微減となった。ところが、世界同時不況が生じると急減する。特に〇九年は急速な落ち込みを見せた。その後の経済回復期には、ほぼ横ばいとなっていた。アベノミクスが始まると、それが減少に転じた。ただし、一五年以降は微増に転じているが、未だに一二年の水準には戻っていない

理論的に正しい雇用の指標を使えば、アベノミクス期には雇用が全体として減少していることが分かる。

出典:『偽りの経済政策』72~73ページ

延べ就業時間」とは、すべての就業者の就業時間を合計したもので、例えば5万人いる就業者が平均して年間1500時間働いているのであれば、5万×1500=7500万(人・時間/年)となります。いわば、経済全体での「働く機会」を表しています。

この指標が実際上も「正しい雇用の指標」と言えるのか。実質GDPを延べ就業時間で割った「労働生産性」と共に、その1980年以降の推移を示したのが下記のグラフです。

なお、『偽りの経済政策』では恐らく公開データの制約上、2000年以降のグラフのみが示されていますが、下記グラフでは、それ以前については全就業者数に近似的に非農業部門の平均就業時間を掛け合せることで、より長期的な推移を確認できるようにしています。

【日本の延べ就業時間と労働生産性の推移(2012年=100)】

バブル経済が崩壊した1990年代以降延べ就業時間は減少トレンドとなり、リーマン・ショック翌年の2009年には大きく減少しています。そして、服部氏が指摘するように、アベノミクス以降はそれよりもさらに落ち込んでいるのです。

また、企業の賃上げ意欲につながる労働生産性の伸びはアベノミクス以降明らかに鈍化しており、この点でも雇用環境の改善は見られません。

私自身、25~54歳男性の正規雇用者数などをもとに雇用環境が改善していないことを論じてきましたが、近年の失業率低下はアベノミクスの成果ではなく、生産年齢人口減少という経済政策外の要因によってもたらされたことが、服部氏の議論によってより明確になっています。

Next: 日本経済の停滞を本当に打破するための政策とは?

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