fbpx

「おれが流した風説じゃない」聡明なワル投機家・Pさんが仕掛けたQ銘柄急騰事件

「塀の上を口笛吹いて歩く」Pさんの一大フィクションを支えた常識力

その後もグレーゾーンで数多の銘柄を手がけたPさんは、生涯、意に沿わぬ仕事をせず、ゴルフと読書と海外旅行に明け暮れていられるだけの金融資産を構築する。

現在はそのカネが減らない程度に、堅実に賃貸マンション等を経営し、家賃収入や証券配当金を稼ぎなら「自由に」暮らしている。

当時のPさんや、私を含む仲間が一番欲していたものは、タダひとつ「やりたいことがやれて、やりたくない事をやらないでいられる生き方」であった。これをひとことで「自由」と言う。

yamazaki_06_03

自由の求め方にも色々あろう。哲学の鎧をまとい精神の自由を確立する方法もあろうし、芭蕉や西行法師のように金銭を徹底的に無視して、世俗から超然とする方法もあろう。

が、Pさんが採ったのは(私もそうだが)、金銭を蓄積して、その力により自由を獲得するというアプローチである。

イギリスの経済学者・ケインズの弟子ハロッドは「ケインズの株式市場における果敢なプレイヤーぶり、投機活動は、彼の自由のための戦いだったのだ」と伝記『ケインズ伝』で回想している。

また永井荷風は、死後、文人としては意外なほどカネを残したが、彼はこの資産について「自由のために必要だった」と書いている。

戦中に戦争賛美本を売って九州に豪邸を建てたものの、若者を戦場に駆り立てたことを悔いて自殺した作家がいたが、永井荷風は書きたくない作品には手を染めず、やりたい女道楽を存分に愉しんだ。「自由」のためにはカネがいる、というのだ。

カネは自由を得る力となる。それを公言して実行し、自由に生きたケインズや永井荷風は立派である。Pさんも私もそう信じていた。

Pさんは我々仲間内で畏敬の対象だったが、本人のいない所では「犬走りのP」などと呼ぶ者もいた。

塀の外側に沿って敷いてあるコンクリート部分を「犬走り」と言う。Pさんはいつも塀に沿って犬走りを走っていたが、決して塀の内側には入らなかった。この「塀」と言うのは勿論、刑務所の塀である。

さりとて、塀から離れた安全地帯にばかりいては旨みがない。我々仲間は口を揃えて「彼は塀の上を口笛を吹きながら歩いているのさ」と景仰した。Pさんは塀の向こうに落ちそうで落ちない、虚実皮膜の投機家だった。

Pさんは決して闇の世界の住人ではない。むしろ、一般の人々より規律正しい毎日を送る。灯火に読書三昧の夜を過ごし、普段はにこやかに人と接し、日常の些事にも正確だ。

端正で礼儀正しく、家庭生活も円満で、ご子弟も含めて健全に「いい線」を行く。Pさんの、この常識人としてのディテールの正確さが、ここ一番の大勝負におけるフィクションにリアリティを与え、他者を動かす力となるのだ。

私だけが、その仕掛けを熟知している。

山崎和邦(やまざきかずくに)

山崎和邦

1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院特任教授、同大学名誉教授。

大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴54年、前半は野村證券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。

趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12を30年堅持したが今は18)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。

著書に「投機学入門ー不滅の相場常勝哲学」(講談社文庫)、「投資詐欺」(同)、「株で4倍儲ける本」(中経出版)、近著3刷重版「常識力で勝つ 超正統派株式投資法」(角川学芸出版)等。

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

山崎和邦 週報『投機の流儀』

[月額1500円(税込) 毎週日曜日配信]
市況動向や世界的超金融緩和の行く末を、学者兼投機家の視点で分析。読者質問コーナーでは活発な意見交換も。初月無料で会員限定の投機コミュニティを覗いてみるチャンス!
ご購読はこちら!

いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー