「ブラックスワン」はサイバー空間と宇宙空間から飛んでくる
金融デリバティブの専門家であるナシム・ニコラス・タレブ(Nassim Nicholas Taleb)は、2008年に書いた『ブラック・スワン(The Black Swan)』の中で、「予測不能と言わしめる市場の大暴落」の可能性を指摘しています。
つまり、タレブは、テクニカル分析にも現れない突発的事態によって世界市場が崩壊するかもしれない、と言っているのです。
それは、高感度の投資家でさえ感知することができない「不意打ち」によってもたらされると。そう、米情報機関が“突発的行動に出る国”と区分して最大限の注意が注がれている北朝鮮のような気まぐれな国家によって――。
(※メルマガ第220号パート1、パート2「米・中・露を巻き込む暗号通貨戦争と金本位を基盤とした新通貨制度」にて詳述)
中国が本腰を入れて西側の市場にサイバー攻撃を加えれば、混乱が世界中の市場に波及的に広がって、外貨準備のドルは大暴落するでしょう。
しかし、中国には人民元があります。もし、基軸通貨ドルの国際通貨システムが崩壊すれば、それが再び回復するまで、世界中の国々は人民元をドルの代わりに使うようになるはずです。
国家を倒すのに、兵器を大量に消費し、無意味な殺戮や蛮行を伴う戦争を起こす必要などありません。ただ、通貨を破壊すればいいのです。
今まで繰り返し書いてきたように、核弾頭ミサイルは、完全な抑止力としては、すでに機能しなくなっているのです。本当の脅威は、サイバー空間と宇宙空間から突然やって来るのです。
トランプの「敵意」は北朝鮮ではなく中国を向いている
中国は、北朝鮮の核開発問題についてはモラトリアムを決め込んでいるように見えます。習近平は、この騒動によって何が中国の利益につながるのか模索しているのです。
少なくとも言えることは、中国は北朝鮮の核開発問題の早期解決を望んでいない、ということです。
中国がもっとも懸念しているのは、米韓が北朝鮮に地上侵攻することです。
1950年6月25日、北朝鮮が国境線と化していた38度線を越えて韓国に侵攻し、朝鮮戦争が勃発しました。翌1951年には、米軍が38度線に軍事力を展開して、米国による戦略的利益のために朝鮮半島統一の動きを見せたことがありました。
トランプ政権は、あくまで韓国軍の後方支援にとどめると言っていますが、韓国の領土が北朝鮮の兵器によって蹂躙されるようなことが起これば、この方針は撤回されるでしょう。
北朝鮮指導部は、米軍に地上侵攻の口実を与えるような愚を犯さないと韓国の国民は考えているので、彼らの間では危機感が薄いのです。
しかし、米国にとっては、それは問題ではないのです。北朝鮮にさらなる経済制裁を科すためには、中国に本腰を入れさせなければなりません。
そのため、トランプ政権は「あらゆる選択肢を視野に入れている」と言っています。これは、北朝鮮に対する、というより、中国の指導部に対するメッセージに他ならないのです。
しかし、1951年から半世紀以上が経過しました。
今回の米軍は、万が一にも韓国が攻撃を受けても、中朝国境のヤール川付近に軍を派兵することもないし、最悪のケースでさえ、グアムから飛び立ったB2戦略爆撃機による絨毯爆撃もないのです。
それは、限定的な特殊作戦と、北朝鮮のインフラを狙ったサイバー攻撃に終始するでしょう。
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