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日本郵政の危ないマネーゲーム。個人をはめ込む政府株売却の本音と建前=近藤駿介

第2次売り出しと自社株買いの矛盾

日本郵政の第2次売り出しを控え、その成長戦略に注目が集まっているが、日本郵政は成長戦略があるかないか以前の問題を抱えている。

それは、売り出しによって得られた資金はすべて政府に入り、日本郵政には入らないことである。ここが政府保有株式の売り出しと新規株式公開(IPO)との大きな差になってくる。

売り出しで得た資金が日本郵政に入らないということは、たとえ成長戦略が描けたとしても、それをコストをかけずに実行しなければならないということである。そもそも、投資資金を必要としない成長戦略が描けているのであればとっくに実行しているはずであり、成長戦略を実行したうえで売り出しを実施するはずである。

売り出しによって得られる資金が日本郵政の手元に入らないどころか、日本郵政は売り出しによる需給悪化を食い止めるための自社株買いを行ったことによって、2017年3月末に保有していた3278.3億円の現預金のうち1000億円を使う羽目になった。

自社株買いを実施したということは、会社が今時点でそれが最も有望な投資であるという判断をしたということでもあり、現時点では自社株買い以上の投資先がないことを公言したことでもある。

こうした日本郵政の状況を鑑みると、日本郵政の成長戦略の有無を議論するというのは的外れなものでしかない。

「高配当」は投資理由にならない

今回売り出しに伴う需給悪化を避けるために、日本郵政は1000億円の自社株買いを行った。自社株買いによって一株当たり利益を計算するうえでの発行済み株式数は減少することになるから、計算上のROE(自己資本利益率)などは改善することになる。

しかし、今回購入した自社株を消却するのか、金庫株として会社が保有し続けるのかによって、こうした指標の改善は一時的なものに留まることには留意が必要だ。

現時点で会社側は、自社株の今後の方針については明確にしていいない。もし、消却せずに金庫株として保有し続けるのであれば、将来M&Aやストックオプション等によって流通することによって発行済み株式数が元に戻ることになる。要するに、保有自社株を消却しない限り、ROEなど指標の改善は一時的でしかない。

ちなみに、第1次の売り出し直後の2015年12月にも日本郵政は発行済み株式の8.5%に当たる3億8330万株の自社株買いを実施しているが、この自社株は消却されることなく現在まで金庫株として保有されている。

日本郵政に関しては、年50円、3%代後半という高い配当利回りが魅力だという意見も多い。しかし、現在の年50円配当が維持されるか定かではない時点で、高い配当を目当てに投資するのは賢明ではない。企業が成長しない限り高配当を続けられないことは、たとえば大塚家具がすでに立証済みのことである。

Next: それでも投資するなら…日本郵政の株主に求められる資質とは?

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