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メモリ事業売却という一時しのぎ。東芝の迷走で一番損をするのは誰か?=栫井駿介

迷走の元凶はお粗末な経営陣

東芝を投資対象として見ると、値動きの激しさを好む短期志向の投資家や、イベントによる動きをにらんだ一部ファンドからは人気があるようですが、上場廃止リスクを多く背負った状態では長期投資を行う個人投資家は決して手を出してはいけません

リスクがあっても割安だから買うと言う人もいますが、時価総額はまだ1兆円もあります。半導体事業を除く今期の予想営業利益はわずか150億円です。PERにするとざっと100倍近くになるでしょう。

もし、半導体事業を無事売却できたとしても、稼ぎ頭を失った東芝が何で食っていくのか先が全く見えません

東芝がここまでひどい状況に陥ってしまった原因は、あまりにお粗末な経営陣にあると考えます。時代遅れの総花的な経営を行ってきた結果、どの事業も競争力が衰えていきました。

不適切会計にも手を染め、子会社の状況も見極められなくなりました。最終的に医療や半導体など、優良な事業から次々に売却せざるを得なくなったのです。その根本には、各部門間での下らない社内闘争を繰り広げる、究極の大企業病があるように思います。

これだけ窮地に陥ろうとも、その動きは何も改善する気配はありません。大胆な改革や外部人材を入れようとする気概もないようです。その結果、半導体事業の売却先ひとつまともに決められない体たらくが続いています。

経営の迷走で最も損をするのは、会社を支える従業員

このような状況で一番損をするのは東芝の従業員です。研究者やエンジニアをはじめ、東芝の従業員には優秀な人材が揃っています。他社にとっては喉から手が出るほど欲しい人材です。実際、東芝の工場が立地する南武線の駅には、露骨に転職を促す広告が掲示されています。
※参考:「シリコンバレーより南武線」、トヨタがIT技術者狙い撃ち求人広告 – Bloomberg(2017年8月3日配信)

いくら優秀な人材がいても、経営の方向性が定まらなければまともに事業に取り組める状況ではないでしょう。そればかりか、既に多くの人材が他社に流出しているようです。

半導体事業の売却が長引き、経営の方針が定まらない期間が伸びるほど、優秀な人材が流出する可能性は高まります。人材流出を食い止めることができたとしても、社員の士気は上がらず、スピードが重視される競争環境のなかで完全に置いていかれてしまうでしょう。

現経営陣は、上場維持にこだわりすぎていると考えます。上場維持のために稼ぎ頭を売却し続け、会社の価値はどんどん劣化しています。上場廃止になっても経営は続けられるわけですから、いっそのことさっさと上場を廃止して、経営再建の道筋をつけたほうが会社の将来のためになるのではないでしょうか。

もっと言えば、上場廃止だけでなく法的整理を望みます。日本の会社は法的整理を極端に嫌う傾向がありますが、それは経営陣の自己保身のためにすぎません

米国企業であれば、逆に法的整理を利用することで、通常ではできない抜本的な経営改革をスピーディーに行うでしょう。法的整理は本来、会社を「つぶす」ためのものではなく、「立て直す」ためのものです。

東芝は間違いなく磨けば光るものを多く持っています。しかし、今の経営陣のままではそれを腐らせるだけです。逆に、経営陣さえしっかりして、スピード感のある改革ができれば十分に立て直せる会社だと思います。

参考になる例がシャープでしょう。鴻海が経営権を握り、抜本的な改革を実施したことで業績はすぐに黒字化し、株価も大幅に上昇しました。

シャープ<6753> 週足(SBI証券提供)

シャープ<6753> 週足(SBI証券提供)

これほど大きな会社であれば、「もうダメだ」と思っても、経営陣次第で大きく復活することも珍しくないのです。

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