記事提供:『三橋貴明の「新」経世済民新聞』2017年1月17日号より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです
経済学者の巧妙なウソ・詭弁に騙されないために知っておくべきこと
浜田参与を変節させた「シムズ理論」が話題に
昨今話題になっているシムズ教授の『物価水準の財政論』。この理論は、金融政策の重要性を強く主張してこられた内閣官房参与の浜田教授に「デフレ脱却のためには財出も必要だ!」という意見に「変節」させたことで(改めて今)話題になっている理論です。
※参考:浜田宏一氏インタビュー 「金融緩和を続けながら財政出動を」 – 週刊エコノミスト(2016年12月27日付)
この「変節」を受けて、メディア上では一部「日本のメディア・学界の緊縮財政派もいい加減に目覚めたらどうか? 米国『シムズ理論』に学べ」などとも主張され、財政政策を求める世論が少しずつ高まりつつあるように思われます。
※参考:日本のメディア・学界の緊縮財政派もいい加減に目覚めたらどうか? 米国「シムズ理論」に学べ – 産経ニュース(2017年1月8日付)
しかも、シムズ教授は改めて今年2月に来日して講演される予定とのこと。
これはまさにデジャブ――昨年3月にスティグリッツ教授やクルーグマン教授が日本に訪れた時と同様の流れが今年も見られるのでは――と思える展開です。
ですが、浜田参与は、クルーグマン教授やスティグリッツ教授の意見も耳にしていたのですが、その時には今のような「変節」はされませんでした。実際、浜田参与自身も、クルーグマンやスティグリッツでなく、昨年シムズ教授の主張に触れた時にはじめて意見が変わったのだと明言されています。
なぜ浜田参与は「シムズ理論」に説得されたのか?
なぜ浜田参与は、クルーグマンやスティグリッツでなく、ほかならぬ「シムズ」に説得されたのか――といえば、理由は簡単です。シムズの主張が、浜田教授の「世界観」と親和性が高い一方、クルーグマンやスティグリッツが主張する財政拡大論は全く異なる「世界観」を持つものだったからだと思われます。
そもそも、クルーグマン・スティグリッツの主張は共に、「需要不足が所得・物価の低迷を導く」という主張。いわゆる「ケインズ理論」の考え方です。
しかし、シムズは違います。彼の主張は、金融政策と財政政策は共に人々の「期待」に影響を与え、その結果として、「均衡」(equilibrium)状態が変化し、最終的に物価が上昇するというものです。
つまり、クルーグマン・スティグリッツの『財政拡張論』は「均衡」を前提せずに導かれたものである一方で、シムズの『物価水準の財政論』は「均衡」を前提として導かれたものなのです。