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お客様第一が会社を滅ぼす。日本企業に必要な「上から目線」の効用とは?=栫井駿介

日本企業の多くは「お客様第一」を掲げ、顧客の要望に対して一つ一つ丁寧に応えようとします。消費者としてはありがたい話ですが、それが必ずしも企業の成長や利益に繋がっているとは限りません。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

顧客に媚を売ると破綻する。アップルから日本企業が学ぶべきこと

「顧客目線」に未来はない

例として宅配業界を挙げます。日本の宅配便は他国に例を見ないきめ細やかさがあり、2時間単位の時間指定や再配達を追加料金なしで行うことができます。

インターネット通販の普及による荷物の急増で配送網がパンクし、現場の配達員は悲鳴をあげています。そんな中でも細かな時間指定や再配達に対応することで、自分で自分の首を絞める結果になっているのです。しかも、値上げや再配達等への課金を行わないため、利益もなかなか増えません。

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それどころか、顧客である消費者は宅配業者の善意をいいことに何度も再配達させたり、通販業者は規模に物を言わせて料金を引き下げようとしてきます。これを続けていたのでは、いつまで経っても明るい兆しは見えません

同じように、スーパーマーケットでは、安さを求める消費者が離れてしまうことを恐れて、「他店よりも1円でも安く」を掲げて価格競争に励んでいます。しかし、全国どこのスーパーもほとんどが赤字寸前であり、価格戦略は必ずしも功を奏していないように思えます。

ボタンのない携帯なんて誰も欲しがらなかった

一方で、成長している企業が行っていることは、「顧客の要望に応える」のではなく、「顧客のニーズを生み出す」ことです。

アップルを例に出すとわかりやすいでしょう。それまで携帯電話にはいくつものボタンが付いていて、それがないと操作できないと思われていました。アップルが最初にiPhoneを出した時は、ボタンのない端末なんて使いにくいと考えられ、顧客は求めていませんでした。

しかし、今となってはボタンのないスマートフォンが当たり前であり、多くのボタンがある端末は絶滅危惧種です。タッチパネル式のスマートフォンを生み出したのはスティーブ・ジョブズのこだわりであり、決して顧客に媚を売ったことはありません。ヒット商品は、顧客の要望に全て応えることで生まれるわけではないのです。

タッチパネルと同時にアップルが顧客に提案したのが、iPhoneの洗練されたイメージです。巧みな広告を打ち、ものすごくおしゃれな使い方をユーザーに提案しました。そのことが多くの「アップル信者」を生み、彼らはどんなに高い商品でも繰り返し購入する優良顧客になりました。

アップルは、顧客のニーズに応え続けたから成長できたのではなく、顧客のニーズを掘り起こしたからこそ成長したのです。日本企業が学ぶべきことはまだまだたくさんあると考えます。

Next: 消費者の「わがまま」に付き合うほど経営は危うくなる

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