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忠実義務を果たした貴乃花親方と「隠蔽大国」の象徴としての日本相撲協会=近藤駿介

「著しく論理性を失している」日本相撲協会

「そのことは話し合っていない。評議員で知恵を出し合って決めたい」

4日の評議員会終了後の記者会見で、2月に予定されている理事候補選挙で貴乃花親方が候補に選ばれた場合の対応について質問を受けた池坊議長はこのように答え、評議委員会が貴乃花理事就任に待ったをかける可能性があることを示唆した。

しかし、こうした考え方も「著しく論理性を失している」ものだ。日本の法制度では「一事不再理」が原則である。「一事不再理」とは、刑事事件の裁判について、確定した判決がある場合には、その事件について再度、実体審理をすることは許さないとする刑事訴訟法上の原則である。

今回相撲協会は、貴乃花親方の一連の行動に対して理事降格という史上初の厳しい処分を下した。その貴乃花親方が2月の理事候補選挙で理事候補になった場合、貴乃花親方が新たな「忠実義務違反」を犯さない限り、今回の一連の行動を理由に理事就任を拒否することは難しい。

もし評議員会が理事候補選挙を経て理事候補となった貴乃花親方の理事就任を拒否した場合、問題はより長期化、深刻化することになる。その場合この問題の長期化、深刻化の責任は誰がとるのだろうか。

「評議員会において全会一致にて解任が決定されたことを踏まえ、今後は再発防止に努め、より一層気を引き締めて内部統制を図りたいと存じます。そして何より、力士が安心して稽古に精進し、本場所で多くのファンを魅了し続けるよう、全力で取り組む次第でございます」

日本相撲協会の八角理事長は評議員会が貴乃花親方の理事降格という史上初の厳しい処分を決めたことを受けこのようなコメントを発表したが、これは一般社会からは全く意味が分からないものである。

問題なのは、「再発防止」「内部統制」が何を指しているのか不明であることだ。

今回のような暴行事件が起きても協会に対する「忠実義務違反」を犯す理事を出さないようにするという意味なのか、それとも、貴乃花親方が提出した報告書に記されたような「『内々で済む話だろう』と被害届の取り下げを要請」するような協会内の隠蔽体質を改善していくという意味なのか、全くはっきりしない。

仮に前者の意味だとしたら、協会がイエスマンで固められることとなり、結果的に「内部統制」は保たれないことになる。「内部統制」とは組織的に違法行為を隠蔽するためのものではない。

反対に後者の意味だとしたら、貴乃花親方に執拗に被害届の取り下げを要求した執行部の人間を明らかにする必要があることになる。

今回の日馬富士による暴行事件では、貴乃花親方の特異な性格と、協会との対立にスポットライトが当てられ過ぎた感が否めない。貴乃花親方の理事降格によってメディアにとって貴乃花問題は一回区切りがついた格好になっている。

しかし、暴行事件の客観的な事実は全く解明されていないどころか、このまま闇に葬られようとしていることを忘れてはならない。

なぜ、横綱が引退に追い込まれるような事件の真相が明らかにされないのか。なぜ、事件の被害者で休場に追い込まれた貴ノ岩が十両に陥落しなければならないのか。貴ノ岩が横綱ではなく通り魔に襲われて怪我をして休場を余儀なくされた場合にも同じように十両に陥落させたのか。

メディアの報道は貴乃花親方の理事降格が決まったことで潮が引くようにおさまる気配を見せている。それとともに世間の注目も薄れていくはずだが、相撲協会に突き付けられた宿題はまだ残ったままであることを忘れてはならない。


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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年1月9日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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