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ヤマト運輸の「悲痛な値上げ」をもたらしたアベノミクスの限界=島倉原

トラック運転手の労働条件は、なぜ民間平均を上回るペースで悪化したのか?

そこで、労働条件の変化を見るため、物価変動も加味した「実質時給」を計算し、その変化率を比較してみました。なお、実質時給=年収÷物価指数÷年間労働時間となります。

前回紹介した「毎月勤労統計調査」にも表れているように、長期デフレを伴う日本経済の停滞を背景として、民間労働者全体もトラック運転手も、実質時給は2014年まで低下トレンドが続きました。2015年、2016年は人手不足を背景として、2年連続で上昇しています。

2001年から2014年に至るまで、実質時給の民間平均は4.4%低下しています。これに対し、トラック運転手の低下率はさらに大きく、大型で12.5%、中小型で14.2%。しかも、年間労働時間の民間平均が1.7%減少しているのに対し、トラック運転手のそれはいずれも増加(!)しています(大型は2.4%、中小型は1.4%)。

つまりこの間、収入減、労働時間増というダブルパンチによって、トラック運転手の労働条件は民間平均を上回るペースで悪化しているのです。

2015年以降の実質時給こそ、民間平均を超えて上昇しているものの、2001年から2016年までの累計では、実質時給のマイナスは依然民間平均を上回ります。そして、2001年時点の民間平均との年収格差もまた、より一層拡大しています。

デフレに加え、貨物自動車運送事業法改正等の規制緩和による運賃価格競争の激化が、こうした結果をもたらしたと考えられます。そこに日本全体を覆う人手不足の問題も加わったことで、労働条件の悪化が限界を超え、労使交渉から値上げ方針決定に至る今回の動きにつながったと言えるでしょう。

緊縮財政という失政により、1997年以降現在まで続いている日本経済の長期停滞とデフレ。国内企業収益も伸びないそうした状況下で、経営の論理によって進行した労働条件の悪化。そして、経済停滞の真因である緊縮財政を放置したまま、「規制緩和による成長」という誤った処方箋を追求することで、かえって社会全体のゆがみを助長する。

今回の事例はヤマト運輸という一企業や陸運業界に限った話ではなく、日本全体でも、そうした縮小均衡の限界が訪れつつあることの表れではないでしょうか。

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