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孫正義が考える「バフェットの倒し方」ソフトバンク親子上場の狙いとは?=栫井駿介

「金のなる木」を売却する行動原理とは?

もちろん、子会社上場によるデメリットがないわけではありません。最大のデメリットは携帯子会社の利益が外部の株主へ流出してしまうことでしょう。

携帯子会社は非常に儲かっている事業であり、グループ連結営業利益の約7割を生み出します。経営学的にはシェアと利益率の両方が高い「金のなる木」であり、その2割を売却するということは、毎期の営業利益の約15%を手放すということです。

出典:ソフトバンクグループ2017年3月期決算説明資料

出典:ソフトバンクグループ2017年3月期決算説明資料

周辺事業ならともかく、一番儲かっている主要事業の一部を切り離してまで資金を調達するなど、普通の会社ではまず考えられません。サッカーに例えるなら、得点王を取ったフォワードを移籍金目当てに放出するようなものです。

しかし、ソフトバンクを「投資会社」とみなすなら合点がいく部分も少なくありません。孫社長は、2006年にボーダフォンを買収してから、携帯キャリアで圧倒的3番手だった同社をほぼ肩を並べる位置にまで押し上げました。

投資会社の一種である「バイアウトファンド」は、買った会社の経営を改善し、その価値を高めて最終的に株式を売却することで利益を得ます。ソフトバンクの携帯子会社は上位2社と肩を並べて大きな利益を出すようになったことで、投資対象としては「収穫期」を迎えたと言えるのです。

孫社長が強く意識する「ウォーレン・バフェット」

投資会社としてのソフトバンクは、それを専業でやっている企業と比較しても並ぶ者はいないほどのずば抜けた成績をあげています。インターネット黎明期に投資したYahoo! JAPANは176倍に、中国アリババに至っては1,400倍に化けました。

そんな「投資会社」を率いる孫社長が常々意識している相手が、投資の世界で知らない人はいない世界第3位の大富豪であるウォーレン・バフェットです。

バフェットが経営するバークシャー・ハサウェイも投資会社であり、ソフトバンクグループと同様に上場しています。その時価総額は、保有株式の総額を合計した金額を上回っていて、その差は「バフェット・プレミアム」とも呼ばれます。

一方のソフトバンクグループは、世界の時価総額トップ10に入るアリババ株式の3割近くを保有するなどの実績をあげていながら、親会社の時価総額は保有株式の総額を下回っています。孫社長は「孫正義ディスカウント」と呼び、その是正を訴えているのです。

これは、単純化して言うなら「バフェットは信用できるけど孫はちょっと信用できない」と投資家が言っているようなものです。これに孫社長は納得がいかないのでしょう。

携帯子会社の上場は、自分の最大の成功と言っても過言ではない携帯電話事業への投資の成果を顕在化させることで、「孫ディスカウント」の解消を狙っているのではないかと感じます。まさに自身のプライドをかけた戦いなのです。

Next: 好対照な2人。孫社長とバフェットのアプローチは正反対

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