変わってきた企業と労働者の関係性
30年前との大きな変化の1つは、日本が終身雇用・年功序列制を放棄し、中途採用・非正規雇用にシフトしていく中で、企業と労働者との関係が変わってきたことです。労働の「成果」「評価」も欧米型の短期化、数量化が進み、企業の労働者へのスタンスが変わり、労働者の企業への忠誠心(ロイヤリティ)も低下した感があります。
かつては「日本的経営」と言われ、新卒労働者に対して企業は20年・30年単位の長期投資としてとらえ、社内教育によって将来の幹部候補生に育てました。労働者も当初は賃金が安くても、いずれ課長・部長になりたいとの希望に支えられ、自分が勤める会社を「わが社」と呼びました。「将来は社長になるんだ!」と言って頑張る、モーレツ社員も少なくありませんでした。
欧米化する企業と、それを後押しする政府
ところが、企業の姿勢が欧米化し、短期の収益を追求し、株主に答えようとして、日本的経営を放棄しました。即戦力の労働力を中途採用したり、パートなど非正規労働者を増やしたりして、固定費としての労働コストの変動費化を進めました。政府もこれに答えるような雇用の弾力化を促す制度を推し進めました。
企業の労働者に対する評価も10年後・20年後を見据えたものでなく、1年・四半期ごとの「成果」を数量化して測るようになりました。
ここに企業と労働者、上司と部下との関係が変わり、信頼関係が「数字」で表される「成果」に左右されやすくなりました。そうなると、職を維持したい労働者は長時間働いてでも「成果」を挙げなければならない状況に追い込まれます。
なかには出世よりも家庭生活を重視する人もいるでしょうが、彼らに働き方を選択する裁量の余地はありません。成果を挙げなければ「クビ」になるか、地方・窓際に飛ばされます。
つまり、裁量労働制を進めるには、労使間の関係が相応に熟していないのです。