ところが、ギリシャはユーロ加盟国である。ギリシャ政府が国債を発行する際に、ドイツ政府やフランス政府と「競争」しなければならなくなったのである。
ギリシャ国内の銀行にしても、別にギリシャ政府にカネを貸す必然性はない。ドイツ政府やフランス政府にカネを貸す、すなわち国債を購入しても構わないのだ。
ユーロ加盟国の政府同士で「競争」が発生し、金利に差が生じる。生産性が低く、経常収支赤字対GDP比率が拡大していたギリシャは、金利が上昇せざるを得なかった。
そもそものギリシャの問題は、貿易赤字が拡大し、経常収支が赤字化していたことだ。貿易赤字拡大を解消するには、生産性を高める必要がある。すなわち、ギリシャ企業や生産者一人当たりの生産を伸ばし、国民の需要を「自国企業」「自国人材」で満たす必要があったのだ。
ところが、生産性を向上するためには、以下の二つが必要になる。
- 関税や為替レートの下落により、外国製品を国内市場から占め出す
- ギリシャ国内で投資を増やし、生産性を高める
ギリシャはEUとユーロに加盟しているため、関税引き上げや為替レートの切り下げは不可能だ。さらに、国内で投資をしようにも、金利が高すぎる。
結果的に、ギリシャは生産性を高め、問題を根本的に解決する道を塞がれてしまった。関税引き上げ、為替レート切り下げ、生産性向上が不可能だとなると、国際的な競争力を伸ばす方法は一つしかない。ギリシャ国民の所得を下げるのだ。
実際、ギリシャは08年以降、国民の所得の合計たるGDPを緊縮財政、デフレ化政策により減らした。ギリシャのGDPは、すでにピークから26%も減ってしまったのである。
すなわち、国民の所得が四分の一以上、小さくなってしまったのだ。税収は国民の所得から徴収される。ギリシャのGDP減少は、ギリシャ政府の租税収入を減らした。
結果的に、ギリシャはユーロ建ての対外負債を返済できなくなり、財政破綻に追い込まれた。ギリシャが財政破綻したのは、「経常収支の赤字体質を、生産性向上によりカバーすることができない構造だった」「デフレ下の緊縮財政で国民の所得が減り続けた」ためなのである。
それにもかかわらず、「ギリシャ人が怠けて働かないから」「ギリシャは公務員だらけだから」といった、ステレオタイプ的な嘘が蔓延している以上、緊縮財政やユーロという構造を「正当化する」情報操作が行われていると理解するべきなのだろう。
『週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』 Vol.320より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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