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給与明細を見るときは、安倍政権と黒田日銀の「二枚舌」にお気をつけて

7月17日、5月の実質賃金(確報値)が25ヶ月ぶりにマイナスを脱したことが大きく報じられました。実質賃金は、モノの値上がりや増税などの悪影響も含め、私たちのお給料の「本当の価値」をあらわす指標。安倍政権にとっては、アベノミクスの成果として上昇をアピールしたい指標でもあります。

そんな大切な指標が、政府や日銀の都合で誤魔化せるとしたら?元ファンドマネジャー・前国会議員政策顧問の近藤駿介氏が解説します。

都合の良い数字を“使い分ける”安倍政権と黒田日銀

政府がアベノミクスの成果として訴えたい「実質賃金」と、日銀が異次元の金融緩和の成果として訴えたい「物価安定目標」は、「矛盾」の故事に準えると「矛」と「盾」の関係にあるようです。

アベノミクスの成果として、実質賃金の上昇を訴えたい政府

「厚生労働省が17日に発表した5月の毎月勤労統計調査(確報値)によると、物価変動の影響を除く実質賃金指数が前年同月比で横ばいになり、2013年4月以来、25カ月ぶりにマイナスを脱した。6月30日発表の速報値では0.1%のマイナスだったが、確報値で上方修正した。企業業績の改善でボーナスなどの特別給与が伸びた」(17日付日本経済新聞 「実質賃金 マイナス脱す」)

先週末、実質賃金が前年同月比で横ばいになり、25カ月ぶりにマイナスを脱したことが大きく報道されました。

「名目の賃金指数を消費者物価指数(CPI)で割って算出する」(同日本経済新聞) 実質賃金の低下は、賃金上昇による景気回復を唱え続けているアベノミクスにとってのアキレス腱でしたから、たとえ「前年同月比で横ばい」に過ぎなかったとしても、政府は「マイナス圏を脱した」ことは大きくアピールしたいところだと思います。

基準を変えてでも「安定的な物価上昇」を達成したい日銀

その一方、19日付の日本経済新聞では、日銀が消費者物価指数の基調を把握するため、新しい指標に着目し始めたことが報じられています。

「日銀は消費者物価指数(CPI)の基調を把握するため、新しい指標に着目し始めた。金融政策の目標に置く生鮮食品を除いた指数から、昨夏以降の原油安の影響が残るエネルギーも除いたもので、1~2月を底に上昇幅が拡大している。加工食品やサービスの値上げなど足元の物価動向を確認する狙いだ。(中略)新指標の上昇幅は3カ月連続で拡大。直近の5月は前年同月比で0.7%上昇し、1月と2月を底に緩やかな上昇基調にある」(19日付日本経済新聞 「日銀、物価判断に新指標」)

5月の消費者物価総合指数が前年同月比0.5%の上昇にとどまるなか、「早期に2%の物価安定目標を達成する」ことを政策目標に掲げて「異次元の金融緩和」を続ける日銀にとって、少しでも安定的に物価が上昇していることを示すデータはとても魅力的に映っているようです。

日銀は物価の基調判断を、これまでの「生鮮食品を除く指数」よりも足下高めになっている「生鮮商品・エネルギーを除く新指標」に変更することを目論んでいるようです。

「新指標の上昇幅は3カ月連続で拡大。直近の5月は前年同月比で0.7%上昇」しているということですから、前年同月比0.1%の上昇にとどまっている「生鮮食品を除く総合指数」に比べると、政策目標に近付いていると主張するには都合の良い指数ということになります。

日銀の「新指標」に統一すれば、実質賃金はいまだマイナス圏

「実質賃金指数は名目の賃金指数を消費者物価指数(CPI)で割って算出する」(17日付日本経済新聞 「実質賃金 マイナス脱す」)この説明からも明らかなように、実質賃金が上昇するためには、単純に言えば分子である名目賃金が上昇するか、分母である消費者物価指数が低下することが必要です(正確には両者の相対関係によります)。

つまり、「実質賃金上昇」という成果をあげたい政府にとっては、分母である物価指数は小さい方が都合がよく、「物価安定目標」を早期に達成したい日銀にとっては、分母の物価指数は大きい方が都合がいいということです。

ここで湧いてくる疑問は、「日銀が着目する新指標で実質賃金を算出したらどうなるのか」というものです。

実質賃金と物価の間には上述のような関係がありますから、消費者物価指数よりも高い上昇率を記録している新指標を分母にして実質賃金を算出すれば、消費者物価指数を用いて算出した従来の実質賃金よりも小さな値になります。

ということは、「25カ月ぶりにマイナスを脱した」といっても、消費者物価指数を用いて算出された実質賃金は前年同月比横ばいに過ぎませんから、新指標を用いて算出された実質賃金はいまだにマイナス圏にあるということになります。

「実質賃金の上昇」という成果を強調しようとすれば「2%の物価安定目標の早期達成」が難しいことが露呈し、「2%の物価安定目標の早期達成」が可能であることを強調しようとすれば「実質賃金の上昇」が危ういものになってしまいます。

日銀が「生鮮食品・エネルギーを除く新指標」に着目しているということは、現状、政府と日銀の政策目標が「矛盾」する関係にあることを露呈したものだといえます。

こうした「矛盾」がバレないように、政府と日銀は、それぞれに都合の良い物価指数を使い分けることは想像に難くありません。国民は政府・日銀のこうした二枚舌に惑わされないようにする必要がありそうです。

近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2015年7月20日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動してきた近藤駿介の、教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝えるマガジン。

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