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ギリシャへの緊縮要求はEUにも不利益!それでも手を緩めないドイツの真意とは?

EUの支援条件である財政改革法案の可決をクリアしたことで当面のリスクが回避されたギリシャ問題。しかし『三橋貴明の「新」日本経済新聞』にコラムを寄せる京都大学准教授の柴山桂太さんは、ギリシャに対しもっと積極的な救済が必要だと語ります。柴山桂太さんの言う、より一層の緊縮財政を要求することで起こりうる、さらなるユーロの混乱とはどのようなものなのでしょうか?

記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2015年11月23日号より
※本記事のタイトル・リード文・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです

緊縮はユーロを滅ぼす

ギリシャ救済案をめぐって、IMFとEUに溝が生まれています。債務の大幅減免が必要とするIMFに対し、ドイツは「ギリシャの改革を見てからだ」とくぎを刺しているとのこと。

IMFが、緊縮策一辺倒だった従来の方針を転換し始めているとすれば、喜ばしいことです。この五年、ギリシャは緊縮財政を続けてきましたが、経済は悪化の一途でした。歳出を減らし、税率を引き上げても、経済のパイが減ってしまえば税収は増えません。

今回の支援でも、ギリシャはさらなる緊縮に取り組むよう求められています。2018年までにプライマリーバランスをGDP比3.5%の黒字にしなければなりません。他のユーロ圏でそんな水準を達成した国がないことを考えても、あまりに厳しい要求です。

この目標を達成しようとすれば、政府はさらに歳出を搾らなければならず、ギリシャの不況が悪化するのは確実です。緊縮財政が不況を、不況がさらなる財政引き締めを…という悪循環にはまり、債務危機の再燃は避けられないでしょう。チプラスよりももっと強硬な政治勢力が、政権を握る可能性も出てきます。こうした事情を考えれば、IMFが債務の大幅減免を訴えるのは(遅すぎたとはいえ)当然の判断と言えます。

さらなる緊縮要求が、ギリシャ経済の破綻を招くことは、ドイツだって分かっているはずです。それでも債務減免に応じないところを見ると、ギリシャをユーロ圏から切り離すのがドイツの本心なのではないか、と思えてきます。

7月12日には、ドイツがギリシャの「一時離脱」を検討しているというニュースが報じられました。ギリシャを5年間、ユーロ圏から離脱させた上で、債務のヘアカットを行うという提案です。

ギリシャがユーロから離脱すれば、ハイパーインフレーションが起きるのは間違いなく、ユーロに復帰するのは絶望的となります。ユーロ圏に再参入するには、物価や金利を低く抑えなければならないという「収斂基準」を満たさなければなりません。しかし、離脱後のギリシャでは高インフレが続くでしょうから、再参入はありえません。一時離脱で終わらず、永久離脱となることでしょう。

その昔、ドイツが第一次大戦後の講和会議で、天文学的な賠償金を課されたことがありました。そのあまりに行きすぎた懲罰に反対し、賠償金の大幅減免を訴えたのがケインズです(『平和の経済的帰結』)。ケインズの提案は、「ドイツに甘すぎる」として取り上げられませんでした。戦争への復讐心で、みな理性を失っていたわけです。しかし、このときの賠償金がドイツを苦しめ、後のナチスの台頭と、ヨーロッパのさらなる荒廃につながったことを考えると、ケインズの提案は決して非現実的なものではなかったと言えます。

ドイツ賠償金問題とギリシャ債務問題は、性質は違います。しかし、支払うことのできない借金を追った国家をさらに追い詰めているという点では同じとも言えます。第一次大戦後にケインズらが行った提案を、ドイツは今度は債権国の立場として、もっと前向きに捉える必要があるでしょう。

これは、単なる人道主義的な提案ではありません。ギリシャがユーロ離脱となれば、ユーロは「終わりの始まり」に向かいます。「次はスペインかイタリアか」という市場の疑念が膨らむのは避けがたい事態となるからです。そうなれば、ヨーロッパの経済はさらなる混乱に、政治は激しい対立に向かうことになるでしょう。

ギリシャの積極的な救済は、人道主義という以上に、現実主義の見地からも必要にして不可欠なのです。

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