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そもそもギリシャはどうすれば破綻しなかったのか?三橋貴明が解説!

7月23日、EUから金融支援と引き換えに求められていた条件である、財政改革法案の第2弾を賛成多数で可決しました。もちろん、これで一件落着ということではありませんが、これにより、EU側との新たな支援交渉が本格化するとみられています。それにしても、そもそもギリシャはなぜここまでの事態になってしまったのでしょうか。中小企業診断士であり作家の三橋貴明さんが詳しく解説してくれています。

通貨発行権の意味

日本ではほとんど正しく報道されていないが、ギリシャ危機の中核には「生産性」の問題がある。結局のところ、ギリシャは生産性が低い状況でありながら、「フェアな競争」を強いられるユーロに加盟した結果、財政破綻に追い込まれたのである。

生産性が低いギリシャがユーロに加盟すると、ドイツなど高生産性の国々の輸出を押しとどめることができない。

結果的に、生産性を引き上げるための投資拡大も起きない。外国製品に勝てない環境下では、ギリシャ企業が率先して生産性向上のための投資に踏み切ることはないのだ。

ギリシャが独自通貨国であれば、通貨発行権を用い、金融政策で為替レートを引き下げていくことが可能だ。例えば、ギリシャの通貨価値が対ドイツ通貨で半分になった場合、ギリシャ国民にしてみれば「ドイツ製品の価格が二倍になった」と同じになる。

当然ながら、ドイツの対ギリシャ輸出は激減する。同時に、ギリシャの観光サービスの「輸出」が拡大し、ギリシャの貿易赤字・経常収支赤字の拡大は抑制され、バランス(均衡)に向かったはずなのである。

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ユーロ圏の経常収支の推移(単位:十億ドル)

ところが、現実にはギリシャに金融政策の自由はなく、為替レートの引き下げは不可能だ。結果、ギリシャはユーロ加盟後、08年までひたすら経常収支の赤字を拡大していき、国内の過小貯蓄状態が続いた。08年までのユーロ圏の「インバランス(バランスしていない)」こそが、ギリシャの財政破綻の真因なのである。

経常収支赤字国は、貯蓄不足になる。というよりも「経常収支赤字=貯蓄不足」なのだ。国内に充分な貯蓄がないギリシャは、政府が資金調達をする場合、「国際金融市場」に国債消化を依存せざるを得なかった。

ところで、日本の金利は長期金利で0.4%と、超低迷している。住宅ローン(固定ローン)はもちろんのこと、銀行から企業への貸し出し金利も長期金利と連動する。というわけで、現在の日本は、国内で企業が設備投資の資金を借り入れようとした場合、1%を下回る「超絶に低い金利」を提示されることになる。(筆者が各地で銀行マンに聞いて回ったところ、10年満期で0.7%が普通だそうだ)

企業が生産性向上のための設備投資を決断したとき、当たり前だが「金利が低い」方が有利になる。

日本の場合、これだけの低金利であるにも関わらず、国内が需要不足(デフレ)で銀行融資や設備投資が充分に増えないという問題を抱えている。日本の需要が安定的に拡大する環境になれば、低金利は設備投資は誘引する(もっとも、そのときは金利も上昇傾向になるが)。

ギリシャが自国企業の生産性を高めたいならば、経済が拡大していた時期(08年まで)の「低金利」が必要だったのだ。ところが、ギリシャは国際金融市場において、政府がドイツ政府やフランス政府と「借入競争」を繰り広げざるを得なくなり、金利は高止まりを続けた。

本来であれば、インフレ率上昇を代償に通貨を発行し、国債買取で金利を抑制するべきなのだが、それもできない。ギリシャは通貨発行権を持っていない。

結果的に、現在のギリシャは、「国内の需要が減少しているにも関わらず、金利が高止まりする」という、凄まじい状況に陥ってしまっているのだ。

ギリシャの長期金利は落ち着いてきたとはいえ、10%を上回っている。しかも、国内では物価下落が継続し、需要(名目GDP)も縮小中。

物価が下落し、需要が縮小するデフレ期には、独自通貨国であれば、日本のように金利が下がる。需要縮小期は企業の設備投資が減るため、銀行は「自国通貨建て」の預金を国債で運用せざるを得なくなるためだ。

ところが、ギリシャ政府はデフレ期であるにも関わらず、国債発行の際に独仏政府などと競争を強いられ、金利は下がらない。今後のギリシャは、

金利が高止まりを続ける
国内の需要が縮小している

という二つの理由で、生産性向上のための投資が減っていくことになる。結果、ギリシャ経済の「低生産性」という根本的な問題は解決せず、ギリシャはドイツ等の高生産性国の「市場」の役割を担わされる植民地状態が続くことになるわけだ。

通貨発行権を失い「為替レートの下落」という盾を持たず、金融政策で国債金利を引き下げる術もないギリシャは、ドイツという高生産性国の属国であり続ける。現在のギリシャは、まさに帝国主義時代にイギリスに支配されたインドそのものなのだ。

週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』 Vol.321より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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