東京五輪、2020年と1964年における「経済効果」の違い
1964(昭和39)年の東京五輪では、株価はその3年前の1961(昭和36)年7月に大天井を付け、再びその大天井を抜くのに7年を要した。
当時、五輪景気というものはなかった。所得倍増計画による高度成長を先取りして大天井を付けた東証ダウ平均(現在の日経平均)は、その後「昭和40年不況」と呼ばれた大型企業の連続倒産と株価暴落へ向かう。1,829円の大天井から1965(昭和40)年の安値1,020円に至るプロセスの最中だった。
当時、財政出動の効果はGDPの規模から見て3倍くらいになって効いたであろう。筆者が学生時代(1960年頃)、マクロ経済学の時間に算出した数字で財政出動のGDPに及ぼす効果(これがケインズの「乗数効果」)は5倍くらいだったから、64年五輪の頃は3~4倍ではなかったろうか。
ご存知の通りこの乗数効果の乗数は「1÷(1-限界消費性向)」だから、経済規模が大きくなるにつれて限界消費性向は小さくなっていき、乗数の値そのものは小さくなっていくという筋合いのものだ。今では1.2倍くらいと想定される。
今の中国人による「爆買い」は大いに消費に効いているはずだが、GDPの6割を占める消費には乗数が掛らない。2020年に向けた五輪景気も消費には効くだろうが大きな経済効果はない。
東京五輪が決まった直後に東京都が五輪効果を試算したら、あまりの小ささに皆が拍子抜けした、それ以降は五輪の経済効果は話題にされなくなった。経済全体を浮揚させる効果よりも五輪の後の施設維持費、メンテナンス費用の負担が掛かる危険性が高い。
古代ローマが衰亡したのはゲルマン民族の侵入によるよりも、至る所に建造した国立闘技場、国立大浴場、国立水道橋等のメンテナンス費用に農業経済国では耐えきれなかったことによるという。グレン・ハバード著『なぜ大国は衰亡するのか』における、経済が疲弊し文化も衰弱、士気も衰弱、結果的に軍事力も衰弱して衰亡に至る、このような経済力の衰亡が大国を衰亡させるのだという説は卓見だと思う。
これを考えもせず、単純に建築デザインから始めるという幼稚な計画は最初から間違っていた。文科相たるものがこの程度の基礎的見識すらなかったのだから辞任して当然だったが、森元首相ごとき不見識な人に大役を割り当てたことも大いに間違っていよう。
翻って64年の頃は、筆者の記憶違いでなければ与謝野鉄幹・晶子の子息である秀才が五輪大会のリーダーシップを執った(編注:与謝野馨元財務相の父で外交官の与謝野秀氏は1964年東京オリンピック大会組織委員会事務総長を務めた)。
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