リスクオフのシナリオ(1)米国発のマネー逆流
昨年10月の米国の量的緩和終了前後から新興国は既にリスクオフでしたが、同時期に発表された日銀マネーと今年3月に始まったECBの量的緩和に救われ先進国は今まではリスクオンが継続していました。
しかし、今月初旬のECBではマーケットが期待した国債買い入れ増額は決定されなかったので、今年3月以降の日米欧のマネー供給ペースに変化はありません。そんな中で、いよいよ米国の利上げが始まります。
先進国のリスクオフ、特に米国株のリスクオンが終わる場合の可能性は上海株安を加えて4つありましたが、ギリシャ問題が片付いたので、地政学的リスク以外でマーケットが気にすべきリスクオフになるトリガーは3つに減っています。
リスクオフになるトリガー
- 米の利上げによって過剰流動性相場が本格的に終了すること
- 昨年1月のように新興国のリスクオフが深刻化しフラジャイル5(編注:ブラジルレアル、インドルピー、インドネシアルピア、トルコリラ、南アランドの新興国5通貨)など比較的大きな国の危機が勃発する
- 中国経済懸念(上海株安/元切り下げ)をきっかけにした世界株安
この3点はいずれも密接に関係しており、特にFOMCで利上げ先送りの理由を海外発の物価下落による影響としたことで、全てが相互的に絡んでいますが、その根源は中国経済に尽きます。
つまり、
- 新興国危機は中国経済減速に起因
- 米国が9月から利上げを躊躇していたのは、世界的な商品市況安の見極めをしていたためなので結局は中国経済
です。
そのいずれかがおきても、玉突き的に他のリスクが現実化するので、結局は全てが起こる可能性が高いのです。
- 新興国危機が起きる事態になると利上げは先送りになるだろうが、中国経済はもっと酷いことになっている
- 米国が利上げをすると、新興国危機に拍車がかかり、中国からの資金引き上げも加速し、中国危機に繋がる
- 中国経済がクラッシュすると、新興国だけでなく世界的な混乱に繋がる
こうして見ると、元をただすと中国経済要因が独立リスクかつ一番の問題だということになりますが、ここではそれぞれ別個に検討することにします。
まずは米発のマネー逆流懸念、引き締め懸念から来るリスクオフシナリオです。現在、世界のマーケットがリーマンショック以降の高値圏で維持出来ているのは、米国の利上げがない中で日欧の緩和マネーの恩恵があるからに過ぎません。
ジャンク債などのリスク資産は既にリーマンショック来の水準までになっているのに、多少調整したといっても依然として市場最高値圏に米国株が位置しているのは、過剰流動性マネーに支えられているだけです。
著名投資家アイカーン氏は、これだけ利回りが急上昇しても、まだ始まったばかりと言っています。
企業収益は既にピークアウト気味なので、過剰流動性相場によるPER上昇がないと相場の上昇は見込みにくくなっていますので、日米欧中央銀行の政策スタンスは非常に重要です。
今年6月中旬以降、世界のマーケットに調整感が出てきたのは、日米欧中央銀行のマネーの方向性が微妙にタイト気味に転じたことがきっかけでした。
- FRB:利上げ時期前倒し懸念台頭→かなりの確度で今月だが、次月以降の見方が急速に台頭
- ECB:来年以降も緩和は続くが、ボラティリティ容認=債券買い入れピッチが緩む懸念→依然として懸念が残る
- 日銀:追加緩和打ち止め観測→早期緩和終了懸念は消え、追加緩和観測も
しかし、今年10月以降は、その巻き戻し的な動きになりました。
- FRB:利上げは来年3月以降に先送りとマーケットが勝手に判断(弱い雇用統計で)
- ECB:12月に追加緩和をする、あらゆる手段を検討しているとドラギECB総裁が発言
- 日銀:10末の追加緩和があるとマーケットが勝手に判断
つまり、日米欧の中央銀行の全てがマネーを緩める方向に動くという見方になってしまったために、マーケットは勝手に妄想的なリスクオンになったのです。きっかけは弱い米国雇用統計を受けて、マーケットコンセンサスの利上げ時期が後連れしたことです。
ほぼ同時期にFOMCのタルーロ理事とブレイナード理事が相次いで年内の利上げに反対する発言をしたこともその理由ですが、他の要人は引き続き年内利上げに賛成する意見が主流でした。FOMCメンバーで最もハト派の二人がこの時期に発言をしたことで、結果的にマーケットをミスリードさせることになったのです。
10月の楽観相場において、中央銀行と市場との見方の違いは以下のようになっていました。
- FRBは再三、年内利上げと発言⇔マーケットは来年3月以降
- 日銀は追加緩和の必要ない⇔マーケットは10月緩和、そうでなかったら11月緩和
- 欧州ECBは追加緩和決定(預金金利引下げの可能性大)⇔マーケットは最も効果がある債券購入増額期待
つまり、欧州ではベストシナリオを織り込み、日米は当局が否定しているのに緩和的行動を織り込んでいたのです。
通常、解釈の齟齬は、中央銀行ウォッチャーなどの分析やプロ投資家の修正で徐々に中央銀行の真意に収斂していくのですが、今回はあまりにも長く認識ギャップが続いていました。
その結果、今月上旬のECB理事会で追加緩和が決定されたのに、その内容がショックだとマーケットが急落してしまったのです。