異次元の金融緩和政策は、本当に「異次元のバカげた緩和政策」だ
日銀によってイールドカーブのフラットニングが推し進められるなかでは、金融機関には、「金利リスク」を負ってでも必要な利鞘を確保するか、「金利リスク」を避けて利鞘を放棄するかしか選択肢がありません。
しかし、「金利リスク」を避けて利鞘を放棄するというのは、座して死を待つ行為ですから、結局は生きるために「金利リスク」を負ってでも利鞘を求める以外に道はないということになります。
こうして「金利リスク」を負ってでも利鞘を求めざるを得ない状況に追い込まれた金融機関に対して、「金利リスク」に応じた自己資本の積み増しを求めるというのはおかしな方針だといえます。
まず、日銀がイールドカーブをフラットニングさせる目的は、金利を下げることで投資を促進させるためです。その方針にそって長期融資を増やした結果、自己資本の積み増しを求めるというのでは、全く意味がありません。
投資家が自己資本に求める期待利回りは、概ね8%程度です。ですから、金融機関側からすれば、8%の資本コストをかけて、住宅ローンなど利鞘が薄いものに資産を増やすことは合理的な判断ではありません。資本コストを考えると、利ザヤの薄い融資を増やすことは、全体としては逆ザヤになってしまいかねないからです。
このような理由で金融機関が期間の長い融資を行わなくなってしまえば、何のために異次元の金融緩和と称してイールドカーブをフラットニングさせるのか、その意義が完全になくなってしまいます。
日銀が金融の専門家であったならば、金融機関が自己資本の積み増しを迫られずに貸出資産などを増やせる環境作りを目指すべきだったといことです。
そして、貸出資産を増やすためには、異次元の金融緩和と称してイールドカーブをフラットニング化させ、金融機関の利鞘を奪うのではなく、融資期間を長くしなくても一定の利鞘を確保出来る環境作りを行ったはずです。
実際に、1990年前後にS&L危機に見舞われたFRBは、政策金利を引き下げる一方で、貸出金利は高めに維持することを認めることで、銀行の利鞘を確保させ、危機を回避したことがあります。
日銀自らが金融機関が保有する国債を買上げ、イールドカーブをフラットニング化させることで金融機関の貸出期間を長期化し、「金利リスク」を増やさせてから、自己資本の積み増しを求めることで、金融機関が利鞘を確保出来る融資を行えなくするという異次元の金融緩和政策は、本当に「異次元のバカげた緩和政策」だと言わざるを得ません。