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黒田日銀の「大誤算」~マイナス金利で円高・株安が起きた真の理由=吉田繁治

先の変化を「織り込む」米ドル指数の動きから分かること

カギは、ドルの実効レート

こうした奇妙な現象は、日米欧の通貨、金利、株価を同時に見ないと分かりません。

最初のカギは、FRBの0.25%利上げをめぐる米ドルの、世界の通貨に対する「実効レート」です。ドルの実効レートは、単に円やユーロとの関係ではなく、加重平均した世界の通貨とドルの関係で見たものです。米ドル指数(ドル・インデックス)とも言います。
米ドル指数のチャート(ローソク足)はこちら

米ドル指数の動き

15年10月15日:94
15年12月 2日:100(FRBの利上げ前にドル指数は上がっていた)
15年12月16日:99(FRBの利上げ:0.25%)
16年2月8日:96(利上げ後にドル指数は下落)

昨年の世界金融の最大のテーマは、「FRBがリーマン危機以降8年ぶりに、いつゼロ金利を脱し、利上げを決定するか」でした。金融市場は、FRBの利上げの時期をめぐって観察と推測を戦わせていたのです。

FRB委員の発言から、12月の利上げがほぼ決定したと見られたのは2015年10月末ころでした。15年8月の中国株価ショックから、日米欧が回復に向かっていたときでした。

この12月のFRBの利上げが確実になって、それをまず織り込んだのが米ドルでした(10月末から)。

外為市場に関する補足情報

外為市場での通貨の売買額は、株式市場の売買額の50倍以上も大きいため、株価より通貨の市場が先に動きます。

国際的には、ポートフォリオ(一定割合での資産分散投資)が行われているため、通貨の動きに瞬間連動するように、株価や国債金利が動きます。

重要な事実:リーマン危機以降、8年もほぼゼロ%の金利が続き、現在は、日欧がマイナス金利になっています。このため、金利は機能を失って、「金利より、通貨が金融政策」になったとも言えるでしょう。

これは、通貨の上昇・下落によって、マネー、株、債券、証券の価格が動くということです。

(※注)利回りの面でも、通貨の為替差益と差損が、1%未満の金利よりはるかに大きい。金利は、年間でほぼゼロです。通貨の変動による為替差益や差損は、1年に10%~30%は普通にあります。円安になったときは、円の利回りが大きく下がったと見ていい。以上が、外為市場に関する補足情報であり、新しく認識しておかねばならないことです。

米ドルでの、将来の金利の「織り込み」

2015年10月15日にはドル指数は94の底でした。このドル指数は、利上げのほぼ2か月前から上がり始めて、利上げの2週前の12月2日に100というピークをつけています。

これが「利上げの織り込み」という現象です。利上げの前に、利上げがあったかのようなドル指数上昇の動きになることです。

織り込みが起こる理由

なぜ、株価や外為ではこうした織り込みが起こるのか?「将来の利上げの確定予想→まだドルは安い→安いうちに買えば利益になる」というドル買いの動きが起こるからです。

このドル買い(=他の通貨の売り)によって、ドル指数は、実際の利上げの2週間前の15年12月2日に100というピークをつけたのです。

実際の利上げが近づくと、利益確定の売りが起こる

そして、その後は12月9日の97.4にまで、売られて下げています。あらかじめ買っていて、ここで利益確定のための売りが増えたからです。

FRBが実際に利上げをした12月16日には、ドル指数は99でした。ところが奇妙なのは、その利上げ決定後です。ドルが0.25%利上げされた後、ドル指数は2月9日の96にまで、3ポイント下げているのです。なぜ、利上げされたドルが下がる(=ドルの売り超になる)のか?この理由も、将来の織り込みです。

Next: 現在のドル安・円高は、FRBの3月利上げ見送りを織り込む動き

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