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クルーグマンと浜田宏一氏の誤り~『2020年 世界経済の勝者と敗者』を読む=吉田繁治

2.インフレターゲットの本来の意味と「3つのインフレ」を理解する

浜田宏一氏:
アベノミクスが目指す2%のインフレ……それは「物価を毎年、常に2%ずつ上げていく」ということです。しかしインフレはモノの値段が上がるということですから、「物価高=悪」というイメージを持っている人もいるのではないでしょうか。しかし物価が上がるということは、企業が儲かるということです。すると、設備投資や雇用も進みます。もちろん、給料も上がります。インフレとはこのような経済全体の上昇を指しているわけです。

出典:『2020年 世界経済の勝者と敗者』 P83

インフレには、浜田氏が、ここでいう、所得上昇と設備投資を生む好循環のものだけではなく、悪循環を生むもの(後述の2種)があります。よいインフレは1種で、あとの2種は悪いインフレです。確認して、整理します。

【1種目:よいインフレ – デマンドプル型のインフレ】

これが、浜田氏がいう上記のインフレです。所得の増加期待がある社会で、物価が上がると、人々は消費を増やす。消費は企業の売上だから、売上が増えれば、利益が増える。

利益が増えれば、企業は賃金を上げて、雇用も増やすだろう。将来のための設備投資も行い、経済は成長する。これが上記です。デマンドプル型のインフレです。つまり所得が増え、需要が増えることによるインフレです。

【2種目:悪いインフレ – コストプッシュ型のインフレ】

これが、異次元緩和後の日本で起こったことです。安倍内閣になり、日銀が円を増発するという予想から、2012年10月から$1=80円が、まず100円に、次に120円に向かって下がりました。増発される通貨は、通貨価値が下がり、売られます。50%もの円安です。

この円安と、2014年6月までは、1バーレル$100だった原油価格と、輸入の金属資源、穀物やコーヒー、砂糖、油脂など食料の原材料を含むコモデティの価格のため、輸入物価が50%も上がったのです。国際コモデティは、米ドルで取引されるからです。

輸入物価の上昇は、資源を輸入に頼るわが国工業の、商品原価を上げ、卸価格も上がって、物価は上昇に転じています(2013年から)。これはエネルギーと原材料の価格が上がることによる、コストプッシュ型のインフレです。需要が増えることによるデマンドプル型とはまるで異なります。

コストプッシュ型のインフレでは、製造原価が上がるので、その分商品価格が上がっても、企業利益の増加がありません。利益の増加が見込めないと、賃金は上がりません。雇用も増えない。設備投資も増えません。

これが、2013年、14年とアベノミクスで上がった物価の正体でした。政府と日銀は、コストプッシュ型の物価上昇を「デフレ脱却」と言っていますが、これは、実は「悪いインフレ」です。

浜田氏は、インフレを区分せず、「物価が上がることは企業が儲かる」ことだと単純化し、異次元緩和のリフレ策を推奨しています。

ここに、インフレの3区分をしていない浜田氏と、浜田氏にリフレ策の経済理論の根拠を提供したクルーグマンの誤りがあります。

3種のインフレを無視し、よいインフレであるデマンドプル型のインフレに単純化しているからです。

【3種目:悪いインフレ – 通貨価値の下落と、資産バブル型のインフレ】

通貨が増刷され、その通貨が投機に使われて、資産価格(株価、不動産、債券)の価格が上がるインフレです。この場合、消費者物価は、あまり上がらない。資産価格が2倍、3倍になるインフレであり、これは「通貨価値の下落」です。これも、経済に好循環を生まない悪いインフレです。

資産価格のインフレが進み、消費者物価の上昇になって行くと、物価が数倍に上がるインフレになることがあります。

資産バブル型のインフレの怖い点は、負債で行われた投機的な投資によって上がった株価と不動産が暴落する時期が、必ず来ることです。

そのとき、不良債権の発生(マネーの不良化)により、バブル後の恐慌か、恐慌に近くなる。1990年から日本のバブル崩壊、2008年のリーマン危機で起こったことがこれです。原因は、資産価格のバブル的なインフレでした。

Next: 3.異次元緩和によるリフレ策の誤りを認め、政策を修正することが必要

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