「中央銀行に対する信認が揺らいでいる」BIS(国際決済銀行)
世界中の中央銀行群の中心に位置し「中央銀行の中央銀行」と言われるBIS(Bank for International Settlements:国際決済銀行)が、「中央銀行という組織に対する信認が揺らいでいる」との警告を発しました。ロイター報道です。
報道のポイント
BISは2016年3月6日、マイナス金利政策および新興国経済に対する懸念を示すかたわら、中央銀行はその「経済的治癒能力」に対する信認を失いつつあるとの懸念を示した。
金融・財政面の安定性を追及する世界中の中央銀行群の中で、その協調行動を助成する役割を担うBISは、最近の懸念材料として、中国経済や原油価格、商品価格の低迷だけでなく、世界経済の中で大きく地殻変動が起きているユーロ圏の銀行問題を挙げている。
BISの税制経済部門トップであるClaudio Borio氏は、2016年第1四半期報告で、「銀行間の資金の貸し借りがこの2年間で初めて収縮している。同時に、世界経済の成長が止まり、債務総額が上昇を続ける中、欧州や日本がマイナス金利政策を実施したことは世界経済に脅威となっている。市場の大幅変動を抑えるための道具である金融政策は行き詰まりを示しており、最近の大嵐は、中央銀行が2008年以降大きな重荷を背負わされていることのメッセージである」と述べている。
さらに、「市場参加者はこのことにすでに気づき、中央銀行の治癒能力に対する信認が落ちていると感じており、これは史上初めてのことだ。政治家もそのうち気がつくであろう」と述べている。
このコメントでは、銀行の余剰資金にかかってくるマイナス金利の副作用についての懸念も詳細に述べられている。
BISのこの報告書は、スウェーデン、デンマーク、スイス、日本、ECBのマイナス金利政策はそれぞれ内容が異なるものの、共に今後、さらにマイナス金利が深く進行していくと見ている。
スイスでは、マイナス金利は顧客の預金に適用されず、そのかわり不動産ローン等の銀行手数料等のコストを増やしている。
BISの報告書では「もし、マイナス金利のコストが個人や企業に対する貸出レートに応分に反映されなければ、その個人や企業は、この手法は合理的ではないと判断するだろう。他方、もしマイナス金利が個人や企業向けの貸出金利に反映されるものの、預金にはマイナス金利が反映されなければ、銀行は収益に大きな影響を受ける。こうなると預金そのものの安定性に疑念が生じるだろう」と述べている。
ユーロ圏外の複数の企業は、ユーロ建ての借入を増やしており、総額で年率15%も伸びている。もし彼らが、通貨先物でヘッジしていないのであれば、それは今後もユーロ安になるほうに皆で賭けているようなものだ。
米国企業の間ではユーロ建ての資金調達が増えており、非金融部門に属する米系企業での発行残高は昨年第4四半期で48%も増加している。
新興国ではこれまで6年間、米ドル建て資金調達が伸びていたものの、昨年の新興国通貨安および調達コスト上昇により、米ドル建ての資金調達は減っている。
国際金融大手の新興市場への貸出は2015年第3四半期6%の減少となっており、そして同時に新興国の国債やローン残高も2015年第4四半期に47B$減少しており、これは3年間で最大の落ち込みであった。
「これは新興国経済市場のサイクルが膨張し、破裂した時点で起きたのであり、破壊的な大波に襲われたようなものだ」と述べている。
…報道の紹介はここまで。
ATM手数料の値上げは預金に対するマイナス金利そのもの
さて上記に「スイスでは、マイナス金利は顧客の預金に適用されず、そのかわり不動産ローン等の銀行手数料等のコストを増やしている」との記述がありますが、これは不思議な話で、ちょうど一昨年、某氏のスイス預金口座の明細では、手数料が毎月引き落としされ、実質マイナス金利の状態でした。
日本のマイナス金利に関して、普通預金にマイナス金利はないので問題ないと解説しながら、他方でATM手数料の値上げを示唆する筋がありますが、これも奇妙な話です。ATM手数料の値上げは、預金に対するマイナス金利そのものです。マイナス金利という表現では文句が出るので、ATM手数料という表現に置き換えて誤魔化しているだけです。
ATM手数料の値上げにはもう1つの目的があります。現金引き出しをしない状況、つまり紙幣を使わない電子決済化に誘導するのに好都合なのです。