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元ファンドマネージャー目線で見た、映画『マネー・ショート』の感想=近藤駿介

リーマン・ショックの真実を描いたという映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』を鑑賞。一般の人にも分かりやすいという触れ込みだったが、正直一般の人に理解できる内容でも演出でもなかったし、個人的感想では映画としての出来もイマイチだった。(『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』近藤駿介)

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。

リーマンショックの真実を描く映画『マネー・ショート』 はイマイチ?

「そもそものストーリーがよくわからなかった」

昨日はメルマガ記事を書いた後は自主休業。奥様を伴ってリーマン・ショックの真実を描いたという映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』を鑑賞。雨が降る寒い月曜日の午後ということで、映画館の客は我々を含めて5人だけ。

一般の人にも分かりやすいという触れ込みだったが、奥様は早々に理解不能状態に陥りコックリ。正直一般の人に理解できる内容でも演出でもなかったし、個人的感想では映画としての出来もイマイチだった。

ヘッジファンドのトレーダーという投資家サイドからのアプローチだったため、「相場を当てた」という部分に目が奪われがちだったことに加え、監督がコメディー出身のせいか中途半端なコメディタッチの説明が入れられたことで、映画全体のシリアスさが失われてしまった印象。

小生自身は専門用語やCDS・CDOといった金融商品に精通しているので内容は全て理解できたが、そもそものストーリーがよくわからなかった。また、現実の話だというが、非現実的というか、ヘッジファンドのトレーダーならもっと簡単かつ効率的な手法があったのに、なぜあえて映画のような手法を取ったのか。少々疑問を感じるところもあった。

「映画の中でも描かれているが、格付け機関は本当に適当」

小生はリーマン・ショック時に、リーマンから(この映画では悪徳金融商品として登場する)CDOを20億円購入していた。しかも通常のCDOよりもキワモノ。しかし、実損は被らなかった。なぜなら、リーマンからAAAの債券を担保として取っていたから。この辺は「相場観」の問題ではなく、「金融知識」の問題。

「金融知識」だけでは大きなリターンを得ることはできないが、「相場観」だけでは大きな損失を被りかねないという現実。これを少しでも多くの人達に理解してもらいたい。

この映画で知ったことは、サブプライムローンの中に無審査のものが多く含まれていたこと。投資する方は、参照資産であるサブプライムローン自体がリスクの高い商品であることは理解していたが、それでも銀行の審査基準を満たしているという前提でリスクを計り、それに見合ったリターンを要求しているので、これが事実だとしたら完全な詐欺行為

この映画の中でも描かれているが、格付け機関というのは本当に適当。場合によっては、投資銀行以上に罪深いといえる。リーマン・ショックが発生した際には平気で10段階以上の格下げをしたし、リーマン・ショック前も「CPDO」というCDOを使ったデタラメな商品に平気でAAAの格付けを与えていた。

当時このCPDOを発明(?)した証券会社から「AAAの債券です」とセールスを受けたことがあるが、「何でこんなもんがAAAなのか全く意味が分からない」と追い返したことを思い出した。

小生のこの質問に対しては、何の回答も返ってこなかった。それは、セールスする人間が「AAA」という格付けだけを材料にしていて、「なぜAAAに値する商品なのか」を全く理解していなかったからだ。(おカネをかけて)「AAA」という格付けを取ったのだから買うのが当然・売れて当然という、思い上がりがあったということ。格付け会社の格付けは、一般投資家を思考停止させるためのツールに悪用される場合が多々あるのが現実だ。

映画を見ていて驚いたのは、映画の中で徳永英明の『最後の言い訳』が流れて来たこと。コックリしていた奥様は気が付かなかったが…。

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近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2016年3月15日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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