ブラック企業がよく使う、定額残業代という名の長時間タダ働き制度

Vladimir Gjorgiev/Shutterstock
 

(要件1)実質的に見て、その定額残業代が残業代としての性格を有していること。
(要件2)定額残業代とそれ以外の賃金部分とが明確に区別できること。
(要件3)定額残業代の額が、実際に残業した時間に対する法定残業代に満たないときは、その差額を支払うこと。

(要件1)を満たすには、就業規則や労働契約などで、残業代であることが示されていることが必要です。

更に、この定額残業代が、時間外労働に従事する者に対してだけ支払われていることも重要です。

(要件2)を満たすには、この定額残業代が、何時間分の時間外労働に相当するのかが示されていなければなりません。最新の裁判例では、この定額残業代のうち、何時間分が時間外労働の賃金なのか、何時間分が深夜割増賃金に当たるのか、何時間分が休日割増賃金に当たるのか明確にするよう求めています。更に、定額残業代の残業時間の上限は45時間以内に抑えるべきです。これを越えると、無効と判断されやすくなります。

(要件3)を満たすには、毎月の残業時間を把握して、定額残業代に相当する残業時間を超えた場合については、別途、残業代を支払わなければなりません。

(要件3)を考えると、結局、従業員の労働時間について正確に把握しなければならず、通常通りの残業代を支払う手間も、定額残業代を採用する手間もほとんど変わりません。

定額残業代を採用するメリットとしては、「日本海庄や」のように、募集の際に見せかけの給料を高く見せることで、より多くの人を集めることができるということぐらい。

反面、リスクは大きい。

もし、この定額残業代が(要件1~3)を満たさず、残業代として認められなかった場合、残業代は未払いとされます。この場合、定額残業代も基本給と同一と考えられるので、「定額残業代+基本給」を基準にして2割5分の割増賃金が計算されます。

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わかりにくいので例を示します。

月の所定労働時間 160時間
月給20万円
定額残業代(30時間分)5万円

通常の残業代 20万円÷160時間×1.25=1563円(1時間あたり)
※しかも、月30時間までは追加で残業代を支払う必要なし。

定額残業代制度が無効とされた場合

(20万円+5万円)÷160時間×1.25=1953円(1時間あたり)

この金額を、残業時間に対してまるまる支払わなければならない。
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それを過去2年分さかのぼって支払う義務が生じ、それと同額の付加金の支払い命令がされる場合もあります。
最近は、定額残業代制度=ブラック企業みたいなイメージも定着しつつあるので、社会保険労務士である私としては、この制度の利用は控えることをおすすめします。

 

「働くあなたが幸せであるために 知っておいて欲しい労働法規」より

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