不可能が可能に!? 花粉症を撃退する免疫細胞「Tレグ」が遂に発見される

thum_01
 

スギ花粉症をはじめ、多くの方が苦しんでいるアレルギー。そんな症状が完治するとしたら…。メルマガ『週刊 サイエンスジャーナル』ではNHKスペシャルで放送された注目の免疫細胞“Tレグ”を紹介しています。番組を見逃した方、必読です

「制御性T細胞(Tレグ)」を増やしアレルギーを克服せよ!NHK“新アレルギー治療”

『週刊 サイエンスジャーナル』2015.4.25号より一部抜粋

最近アレルギーを持っている人が多い。私も花粉アレルギーだ。一緒に食事するときに、小麦は大丈夫? 牛乳は大丈夫? と聞かれるのは当たり前のようになってきた。アレルギーになる食品とは何だろう? 卵、乳製品、小麦、甲殻類(エビ、カニ)、果物類、そば、魚類、ピーナッツ、魚卵(いくら)、大豆、木の実…。ずいぶん多いものである。中には命にかかわる場合もある。

4月5日、NHKスペシャルの「新アレルギー治療~鍵を握る免疫細胞~」を見て、アレルギーを持っているヒトは確かに最近増えていることが理解できた。その原因は周囲がきれいすぎるから…という、驚きの調査結果だった。

それはアレルギーの人がほとんどいないアーミッシュの調査から明らかになった。アーミッシュは200年以上前、先祖がヨーロッパから米国へ移住した人々。今なお、宗教的な理由から質素な生活を徹底して守り続けている。アーミッシュは撮影されることを嫌うため、その暮らしぶりはあまり紹介されてこなかった。

アーミッシュは基本的に自給自足の生活で牧畜が盛んで、幼い頃から家畜の面倒をみる習慣がある。調査するとアーミッシュは都会で暮らす人に比べ、花粉症は20分の1、アトピー性皮膚炎は10分の1と極端に少ないことが分かった。

ムティウス博士はドイツで家畜との接触が多い農家を訪ね歩き、改めて血液を調べた。すると血液の中の制御性T細胞(Tレグ)が35%も多いことが分かったのである。家畜と触れ合うとアレルギーが少なくなるのは制御性T細胞(Tレグ)が増えるからだとムティウス博士は結論づけた。

実は制御性T細胞(Tレグ)の存在は20年前に確認されていた。発見者は大阪大学教授の坂口志文氏(64)。

免疫とは様々な種類の攻撃細胞が体に入ってきた異物をチームプレーで攻撃する仕組みである。しかし坂口教授はその中に攻撃を止める役割を持つ細胞がいることを発見した。それが制御性T細胞(Tレグ)。そもそもアレルギーは体内に花粉などのアレルギー物質が侵入した場合、害がないにも関わらず攻撃細胞がそれを攻撃し続けることで起こる。

ここで重要になるのが制御性T細胞(Tレグ)の働き。アレルギー物質が体に害がないことを判断し、攻撃を止める指令を出していることが分かった。つまり制御性T細胞(Tレグ)がアレルギーになるかどうかの一つの決め手になる。

アーミッシュの場合、制御性T細胞(Tレグ)が多いため攻撃する細胞を抑え込め、その結果アレルギーになりにくいのだ。一方、制御性T細胞(Tレグ)が少ない都会で暮らす人は攻撃細胞を抑え込めないためアレルギーになりやすいと考えられる。制御性T細胞(Tレグ)の存在と役割が明らかになったことでアレルギーの治療が飛躍的に進む可能性が出てきた。

『週刊 サイエンスジャーナル』2015.4.25号より一部抜粋

【2015.4.25号の目次】
1.環境省2030年、再生可能エネルギー33%予想!バイオエタノールに新酵母発見!
2.第58回ノーベル生理学・医学賞 「一遺伝子一酵素説」「遺伝子組み換えと形質導入」
3.第58回ノーベル化学賞 フレデリック・サンガー「インスリンの構造研究」
4.第58回ノーベル物理学賞 臨界の証明「チェレンコフ効果の発見とその解釈」
5.木星は太陽系を行ったり来たり?複雑な太陽系形成「グランドタック・シナリオ」
6.北「制御性T細胞(Tレグ)」を増やしアレルギーを克服せよ!NHK“新アレルギー治療”

 

『週刊 サイエンスジャーナル』

著者/なみ たかし
大学でライフサイエンスを学ぶ。現在/理科教員/サイエンスコミュニケーター/サイエンスライター。メルマガでは毎日の科学ニュースをもとに、最新科学やテクノロジー、環境問題や健康情報など、役に立つ科学情報をわかりやすく解説。
≪無料サンプルはこちら≫

image by: NHKスペシャル

【ついでに読みたい】

print
いま読まれてます

  • 不可能が可能に!? 花粉症を撃退する免疫細胞「Tレグ」が遂に発見される
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け