2015年も色々な技術やツールが世間を賑わせました。そんな1年を振り返りつつ、それらの技術が各企業に、そして未来にどのような影響を与えるのかを、世界的エンジニアでメルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者・中島聡さんがプロの目線で語ってくれています。
2015年の総括
2015年を振り返りながら、来年の予想を書いてみようと思います。
Appleからは、iPhone 6s、6s Plusに加えてApple Watchと新型Apple TVが発売されました。Apple Watchはまだまだニッチな商品で、人々のライフスタイルを変えるほどの大きなインパクトを与えることは出来ていません。ウェアラブル・デバイスという市場そのものがまだ未熟で、人々にもたらす価値よりも、テクノロジーの方が先行している、というのが現状です。AppleがApple Watchに関しては販売数を発表しないのも、その数字がAppleにとって「新しいビジネスの柱の1本」になるほどのものではないからです。
Apple TVにtvOSを搭載してプログラミング可能にしたことは、開発者にとっては大きな意味を持つものでしたが、今の段階ではXboxやPlaystationなどの「据え置き型ゲーム端末」のビジネスを脅かす存在にはなっていません。新型Apple TVの登場によってもっとも大きな影響を受けるのは任天堂であることは明らかで、私が任天堂の経営者であれば、そろそろハードウェアビジネスからは撤退して、コンテンツビジネスにフォーカスすると思います。つまり、スーパーマリオやゼルダの伝説をiPhoneやApple TV向けに提供すべきタイミングだという話です。
2015年に発売されたハードウェアの中で、私が最も高く評価しているのはMicrosoftのSurface Bookです。技術的にどうこうというよりも、「タブレットにもなる高性能ノートブック」という商品のポジショニングが絶妙で、これがiPad Proでエンタープライズ市場に進出しようとしているAppleの出鼻をくじく形になっており、中長期的に見れば、「Surface BookがMicrosoftを救った」形になると私は見ています。すでに、2015年の第4四半期でMicrosoftのタブレットがiPadよりも売れた、という数字が出ていますが、それが2016年はもっと顕著になると私は見ています。
Surface Bookの登場により、AppleのiPad Proの立ち位置は微妙になりました。Apple Pencilの導入により、アーティストや漫画家などのビジネスツールとしてのデファクト・スタンダードを取りに来たのだと思いますが、その市場のユーザーの多くは未だにパソコンを使った作業が中心なため、見かけ上リスクの少ないSurface/Surface Bookを採用する人が多く出る可能性が高いと思います。
ここはアプリケーション次第の部分もあるので、Adobeなどのサードパーティがどちらに力を入れてくるかも大きな影響を与えると思います。
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