小さな「通貨切下げ」と、そこから広がる大きな衝撃
昨年夏の人民元の切下げは、これまでの日米のそれとは全く異なる次元の効果をもたらすことが予想される。その小さな数値以上に、中国当局は後に世界に広がる大きな「波及効果」を狙った可能性がある。
中国は、既に世界最大の通商国および、貿易相手国の地位を取り戻している。ゆえに、人民元が下落すれば、他国通貨も呼応し下落することを当局は知っているはずである。
BRICSや途上国通貨へと波及することで、G7通貨には上昇圧力がかかる。既に「最終兵器」とされる中銀カードを切っているG7には次に打つ手がない。
さらに途上国通貨の下落は、「通貨防衛」の名目で米国債売りを伴う。ここに今回の、中国の真の狙いがあるのではないか。
昨年6月、中国株の下落から始まった世界の金融市場の一連の動きは、G7が切った中銀カードが「期限」を迎えていることを市場が悟り始めていると言える。
中国の米国債保有量の減少を、G7経済は警鐘と捉えるべきである。資本流出といった本質を隠す「標語」に惑わされるべきでない。
「開かれたG7」を待つ中国
米国経済、そして国家そのものの最大の支えは、準備通貨の特権、「無限の借金」に他ならない。ひとたび、世界がこれをやめようとなれば全てが逆回転する。
中国が号令をかけるわけではないが、最大保有国がその保有量を減らすことで世界が呼応し、米国債売りが加速する可能性も否めない。
日米財政の根幹となる米国債の価値が下がり続ければ、日本においては外貨準備が急速に目減りし、国力そのものが根底から揺らぐ。
しかし一方で、中国も米国景気の健全性を支持する環境にある。
米国が大きく揺らぐことは、今も発展途上にある中国経済の重要な「喚起役」が勢いを失うことにつながる。中国が世界秩序の急激な変化を望む理由はなく、ましてや米中戦争など到底あり得ない。
実情は、金融市場、株価維持に振り回されるG7の国家運営が、中国にまたとない機会を与えているということである。
これまでG7が阻んできた中国の世界秩序への進出、「責任」ある形での金融秩序へ参加が、その粘り強い交渉を経てようやく実りを得ていることを見れば、多くのことが中国本位に動いていることが伺える。
昨年、世界が支持したAIIB、完全な自由化がないままの人民元のSDR入りなどはまさにその象徴である。中国はこの機を捉え、今後とも世界秩序への責任ある参加を「必要な分だけ」順次拡大させていく狙いでいる。