2つの思想の「死」で格差は拡大した
なぜ格差は急速に拡大しているのでしょうか? いろいろ理由はあると思いますが、私は「貧富の差を減らそう」という「思想が廃れた」のが主な原因だと思います。
19世紀、資本主義国には、なんの歯止めもありませんでした。子供や女性も、超低賃金で超長時間働かせていた。当時の支配的な思想は、「市場が自由であれば、すべてよし」の古典派。
そんな時、マルクスが、「労働者が革命を起こし資本家を打倒するのは、『歴史的必然』だ!」とする「共産主義思想」を発表します。
当時の労働者は、よほど怒っていたのでしょう。共産主義は、全世界で大流行します。1917年、ロシア革命が起こり、共産主義思想をベースにした国・ソ連が誕生しました。
1929年、アメリカ発の「世界恐慌」が起こった。古典派のフーバー大統領は、この危機をまったく克服できなかった。
「世界恐慌で古典派の欠点が明らかになった」
このこと、はっきり知っておく必要があります。次のルーズベルト大統領は、「ケインズ」の考え方を政策に活かしました。ケインズは、「景気が悪いときは、政府が支出を増やして有効需要(=消費と投資)をつくればいい」と主張した。戦後は、ケインズの考えが世界の主流になっていきます。
ところが、「財政支出を増やして有効需要をつくる」ケインズ式は、「癖」になります。やればすぐ景気がよくなるので、歯止めがきかない。それで、ケインズを採用した国では、どこも「財政赤字」が深刻な問題になっていきました。しかし、これは「ケインズの間違い」というよりは、使う側の「規律のなさ」の問題でしょう。とにかく、1970年代になると、「もうケインズではダメだ」と思われはじめた。
1980年代になると、アメリカのレーガンさん、イギリスのサッチャーさんが「新自由主義」的政策で、景気をよくすることに成功します。新自由主義は、市場原理主義、経済的自由主義、自由貿易、市場経済、民営化、規制緩和などを主張します。米英の成功で「新自由主義の時代」がやってきました。ケインズは衰退します。
そして1991年末に、共産主義の総本山ソ連が崩壊し、万人平等を唱えた「共産主義」は死んだ。「貧富の差解消」を目指した、「ケインズ主義」と「マルクス主義」の死。そして、世界には「新自由主義」だけが残りました。