先日掲載した記事で「出版不況で旅行雑誌の紹介記事の質が落ちている」という現状を暴露した、元旅行雑誌編集長の飯塚玲児さん。最近の雑誌は、現地へ取材に行くことなく書いた記事も多いとか。飯塚さんは、自身のメルマガ『『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』で、本当に現地へ取材にいったかどうかがわかるを。信頼できる旅行雑誌を選ぶ基準にすることができますよ。
旅行雑誌のウラ読み術(2)
前号の続きである。 前号では、旅行雑誌業界の取材の現況について書いた。
●売れない訳だ。大手旅行誌の元編集長が暴露する出版不況「負の連鎖」
出版不況が、紹介記事の質を落としているということを紹介した。今号は、そうした旅行雑誌の記事の中で、正しい情報を読み解くには、どういったこと、どういった表現に気をつければいいか、を解説しよう。
温泉の紹介記事は、一般的には写真と文章で成り立っている。
僕はカメラマンでもあるのだが、まずは、本業である文章について書く。
旅行雑誌の文章表現には、ある「宿命」というものが存在する。
それは難解な言葉を使えないということだ。
読んで楽しく、平易な文章を求められる旅行雑誌では、論文のような漢字ばかりの難しい記事は読んですらもらえない。 すると、どうしても語彙が限られてくる。 つまり、表現が似てくるのである。
たとえば料理を紹介する表現の常套句は、「四季折々の料理」「季節ごとの食材を盛り込んだ」「温かいものは温かく、冷たいものは冷たいままで」などがお馴染みである。
こうした表現ばかりが連続している記事というのは、取材が甘い、あるいは現地に足を運んでいないということが考えられる。
つまり、詳しく書くことがないから、曖昧な言葉で逃げを打っているのだ。
また、詳しく紹介すること、書くことがないということは、それだけその宿や施設ならではの魅力が乏しい、ということにもなる。
こういう記事で紹介されている宿や施設には注意が必要である。
同じような内容の料理でも「春はウルイや山ウドなどの山菜、夏は鮎、秋は松茸、冬はシシ鍋など」というふうに具体的なことが書かれていれば、1行プラスくらいの文章量でも明確な魅力を伝えることができる。
さらに「春のサヨリ、夏の岩ガキ、秋から冬のカサゴなど、旬の食材に“走り”と“名残”を盛り込んで、料理からも季節を楽しませてくれる」なんていう書き方になれば、ぐっと高級感も増しておいしそうな雰囲気になってくる。 こういう表現はキチンと取材をしていないと書くことが難しい。
僕自身は、料理に関して“おいしい”という言葉を使わないように心掛けている。 味の好みは個人的なもので、千差万別だからだ。
それに、自分がおいしいと思ったことを表現するのに、ただ「おいしい」と書いたのでは、プロのライターの名が廃るというもの。
それよりは、どんな食材をどういう風に調理してあって、舌触りや歯応えはどうなのかを書いた方が、読者にとってはずっと味のイメージをしやすい。こういうことを書くためには、やはり実際に味わわないといけない。
逆に言えば、そうした味わった人間にしかわからない表現で書かれている記事は信頼に足るといってもいいだろう。