真田丸『第9話』解説。黒駒合戦がなければ徳川の天下はなかった?

2016.03.06
by yomeronpou
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 NHK大河ドラマ『真田丸』を放送直後にワンポイント解説する人気連載シリーズ。今回は、「黒駒合戦」を詳しく解説しています。圧倒的な兵力を誇る北条軍に打ち勝つため、徳川軍はリスキーな戦略に打って出ました。一般の人たちにとってはあまりなじみの無い「黒駒合戦」ですが、実は歴史の大きな分岐点となっていたようです。

今回のワンポイント解説(3月6日)

今回のテーマは天正壬午の乱。天正壬午の乱とは、本能寺の変によって織田政権がガタガタになったあと、北条氏政・氏直と徳川家康との間で起こった武田遺領争奪戦のこと。

ドラマでも描かれたように、このときの北条軍主力は神流川合戦で滝川一益を撃破して信濃に入り、上杉軍を牽制したのち南に旋回して甲斐に向かった。その兵力2万以上。一方で、北条氏忠・氏勝らの率いる別働隊約1万が東から甲斐に侵攻しており、北条軍は甲府盆地を東西から挟 撃できる態勢を整えた。これに対し、駿河から甲府盆地に入った総勢1万たらず徳川軍は、万力の中に頭を突っこむような形となった。常識的に考えれば、家康は甲府に本陣をおいて東西に前衛部隊を出すべきだが、自ら主力を率いて新府城に入り、甲府盆地の東に鳥居元忠らを前衛として派出した。兵力に余裕がないため、自軍の主力を北条軍主力と直接対峙させる、というリスキーな布陣をとらざるをえなかったのだ。

残されている史料からこの戦いを追ってゆくと、家康が武田の旧臣たちを着々と味方につけ、局地戦でも勝利をおさめて劣勢をはね返したように見える。でも、それは勝ち残った側が書いた史料から戦いを復元した結果でしかない。生き残って徳川の家臣となった者たちは、「当家はいち早く家康公に御味方申し上げた」とこぞって主張するし、劣勢の中でも奮戦した者は、末代までの語りぐさとするからだ。客観的にみるなら、この時の家康は圧倒的に劣勢だった

一方、本国で戦略全般を指揮していた氏政は、膠着状態が続くことを憂慮し、御坂峠に陣取っていた氏忠・氏勝らに対し、甲府盆地へ進軍するよう指令した。氏忠・氏勝隊は御坂峠を下り、徳川軍の警戒部隊を蹴散らした。ところが、山の上での長陣に倦んでいた将兵達は略奪に走って統制がきかなくなり、鳥井元忠隊の急襲を受けて惨敗してしまった。これが黒駒合戦だ。こうして北条軍は作戦上は手詰まりとなったが、決め手を欠いたのは徳川方も同じで、双方にらみあいをつづけた挙げ句、講和を結ぶこととなった。

ここで僕はつい、思ってしまう。もし黒駒合戦がなかったとしたら、家康は甲斐の領有をあきらめざるをえなかった。この場合、家康は秀吉に対抗できるだけの勢力には成長できず、徳川の天下も実現しなかった可能性が高い。真田昌幸も、おそらく北条家の外様国衆となって、歴史に埋没しただろう。つまり、黒駒合戦という知名度の低い局地戦が、実は潜在的な歴史の分岐点になっていたわけだ。そんなふうに考えてみるのも、ちょっと面白いよね! (西股総生)

今週のワンポイントイラスト 

天正壬午の乱が勃発するなか、いっぽうそのころ信繁は…? 視聴者から「うざい」と厳しい意見を受けているきりちゃんだけど、それゆえについ気になる存在。 気が付いたらいつも心の中にいる系女子。一方梅ちゃんは守ってあげたいカワイイタイプだけど、 実はけっこう計算高くてしっかり者系女子。信繁の天正壬午の乱、どのように決着するやら (みかめ)。

 

文・絵/TEAM ナワバリング(西股総生・みかめゆきよみ)

ナワバリスト(城郭研究家)の西股総生率いる、お城(主に山の城)と縄張りを愛する3人組

 

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