逆転判決。認知症の老人が徘徊で起こしたJR事故、家族に賠償責任なし

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愛知県大府市のJR共和駅構内で、91歳の認知症老人が列車にはねられて死亡した事故。JR東海が家族に対して電車の遅延損害金など約720万円の損害賠償を求めていた裁判で、最高裁は家族への損害賠償責任を認めないという判決を下したことが大きな話題となりました。「ホンマでっか!? TV」でもおなじみの池田清彦先生はメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』で、今回の最高裁判決を評価しつつ、JR東海を始めとする鉄道会社の対応を一刀両断に批判しています。

認知症の老人が起こしたJR事故の最高裁判決について

認知症で徘徊中の91歳の男性が、列車にはねられて死亡した事故をめぐって、JR東海が家族に720万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁は家族に賠償責任はないとの判決を下した。首肯できる判断だと思う。

この事故は2007年12月7日に愛知県の東海道本線共和駅で、無施錠のホーム側フェンスを通り抜けて線路に下りた男性が列車にはねられ死亡したもので、この影響で東海道本線の上下線20本に約2時間の遅れが発生した。JR東海は振替輸送等に719万7740円がかかったとして、家族に賠償を求めて提訴し、賠償責任はないと主張する家族と争っていた。

JR東海の賠償訴訟の根拠となったのは民法714条で「1.前2条の規定により責任無能力者(民法上責任能力のない者)がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負うものは、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。但し、監督義務者がその責任を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りではない。2.監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う」と定めている。

元々、この規定は、たとえば、小学生が石を投げて、第三者の家の窓ガラスを割ってしまった時に、親が賠償するべきだといった事態を想定していたもので、それとても、多少とも子どもの行動に起因するすべての事故に関して、親の責任を認めているものではない。有名な判例としては、11歳の小学生が校庭の端にあったサッカーゴールに向かってサッカーボールを蹴ったところ、ボールがフェンスを越えて道路に転がって行き、 ちょうどそこへ、85歳の男性が自動二輪を運転してさしかかり、ボールを避けようとして転倒し、その後、認知症に陥り最終的に嚥下障害で死亡した事故で、男性の権利義務継承者が親に賠償を請求したが、最高裁は賠償責任を認めなかったものがある。

親は、子どもの監督義務者であるのは当然だが、その場合であっても、状況によっては賠償責任はないのである。校庭に設置されたサッカーボールに向かってボールを蹴るのは当たり前で、それで事故が起こるとすれば、親の責任というよりもむしろ学校の責任であろう。 JR東海の事件では、事故を起こした91歳の男性と同居していた当時85歳の要介護1の妻と、当時、横浜市に住みながら介護にかかわってきた長男に、JR東海は賠償を求めたが、最高裁はそもそもどちらも監督義務者に当たらないとして、JR東海の請求を退けたのだ。

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